恋戦隊☆LOVE&PEACE(長編)
□Lovesick vol1(猿飛)
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「…ありがとうございました、またどうぞ〜♪」
深夜…猿飛はいつものように、イエローマンで店番をしていた。そろそろ閉店時間となる深い時間でも、適度に客が来店しており、お陰で余計な事を考えずに済んでいる。
午前中のエマージェンシーコールでは、どうにもやる気が起こらず、メンバーに迷惑をかけてしまい、自分でもかなり反省していたのだ。
「猿飛、おかわりだ」
「継ちゃん、飲みすぎ!そろそろ閉店時間なんですけど」
苦笑いしながらも、猿飛は黒峰にウヰスキーを注ぐ。
もともと黒峰はイエローマンの常連なのだが、今夜は猿飛のおごりとあって、いつもより飲むペースが早いようだ。
「おごりだと、いつもより美味しく感じる事は確かかな」
「でしょうねぇ…」
「んな事より…」
「ん?」
「お前、仕事に私情…色恋沙汰を持ち込むなよ」
「…え?」
黒峰の一言が、猿飛の胸に突き刺さる。
自分の生い立ちの事もあり、人付き合い…殊に恋愛に関しては、ドライに接してきた猿飛だ。
ハートレンジャーに抜擢されてからも、基本的にはスタイルを変えずに、所謂、軽いお付き合いを心掛けいたのだが…。
「俺の目はごまかせねぇよ。…お前、緑川に惚れたか?」
「は?え?何!?突然!?」
「わかりやすいなお前…」
「継ちゃん、冗談は止めてよ。確かに今日は皆に迷惑かけたけど、結ちゃんは関係ないって」
「ほう…」
必死に否定する猿飛だったが、黒峰はニヤッと口許に笑みを浮かべたままでいる。
と、常連客の女性が突然話に割って入ってきた。
「ねぇ、黄平♪ちょっといい?」
「ん…なあに?」
女性客は、猿飛の耳元で何かを囁くと、甘えた目で彼を見つめる。猿飛は、一瞬何か思いをめぐらせていた様だが、すぐにニッっと彼女に微笑みかけ、優しくこう言った。
「…いいよ、仕方ないコだねぇ」
「ふふっ☆じゃ、後でね?」
ひらひらと手を振り、女性客は会計を済ませると店を出て行った。
客を見送った猿飛は、黒峰にいたずらっぽく微笑むと、手際よく店の片付けを始めた。
「さて、継ちゃん…閉店時間だよ?」
「…へぃへぃ。ま、一応忠告しとくが、自分に嘘はつけないもんだぜ?」
「僕は正直者ですから…」
「フン…」
黒峰は、グラスに残るウヰスキーを一気にあおり、イエローマンを後にした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
猿飛は、イエローマンを早々に閉めると、例の女性客との待ち合わせ場所に向かった。
「紗枝ちゃん、お待たせ〜♪」
「ちょっと待ったから、しっかりサービスしてよね?」
女は甘ったるい声で猿飛の腕にからみつく。猿飛も、それに応える様に彼女の手を優しく握り、歩き出したが…。
「黄平…さん?」
聞き覚えのある声に、猿飛の心臓が瞬時に跳ねる。振り返った彼が目にしたのは…やはり結の姿だった。
「あ…結ちゃん、山崎さん…。奇遇…だね」
にこやかに笑おうとしても、顔が引きつっているのが自分でも解る。それは、自分が女性を連れている後ろめたさだけでなく、結が一緒に居る男性、山崎の存在が大きかった。
「猿飛さん、彼女さんですか?」
「え?」
「初めまして、紗枝で〜す。黄平、お友達なの?」
「あ、うん。お店の常連さんの山崎さんと、職場の同僚…」
「…緑川です」
「わぁ、可愛い♪美少年って感じ。食べちゃいたい〜」
「や…あの…」
「紗枝ちゃん、やめろって…。ごめん、この人ちょっと酔っ払ってる。またね…」
猿飛は、突然紗枝の手を掴むと、強張った表情のままその場を立ち去ってしまった。
取り残された結と山崎は、二人を呆然と見送っていた。
「…行っちゃった」
「あれ、多分彼女じゃないな…」
「え…そうなの?」
「イエローマンで何度か見たことある。黄平さん、モテるからねぇ」
「そう…だよね」
「でも変だな…。こないだの話じゃ、そういうのは卒業だって言ってたのに」
「……」
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