幕末志士の恋愛事情(短編)

□初雪
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京都の冬は寒い。
しかも、現代ではなく幕末なのだ。

「はあっ!」

日課の掃除も辛い季節になってきた。雑巾を絞る手がかじかんで冷たい。
息を吹き掛けながら、何とか頑張っている。

「日菜子ちゃん、おかみさんが呼んでるよ」

「おかみさんが?」

「うん。ちょっと面白い話だと思うわ」

おりょうさんは柄になく、ニヤッと笑った。
何だろう?

おかみさんの所へ行くと、気まずそうに話し出した。

「急な話で悪いんだけど、今日と明日、留守番を頼みたいんだ」

「あ、はい」

「昔からお世話になっている旦那のお宅でご不幸があってね、あんた以外の子を連れて泊まりがけの手伝いに行くんだよ」

「あ…」

「龍馬さん達も、中岡さんを残して皆さんお留守だろ?…大丈夫かねぇと思って」

「へ?」

「まがりなりにも、嫁入り前の娘が…ねぇ」

答えに窮していると、背後から突然声が聞こえてきた。

「オレは武士っすよ!おかみさん、見くびらないで欲しいッス」

慎ちゃんが、赤い顔をしてむくれていた。

「ふふっ、ご本人がそうおっしゃるなら大丈夫ね」

おりょうさんの『面白い話』って、この事だったんだ!


程なく、おかみさん達は出かけてしまった。
おりょうさんは、私にこっそりと

「頑張ってね!」

と悪戯っぽい笑顔で微笑んだ。
頑張るって…何をですかってーの(汗)


…………………。

気まずい…とにかく気まずい。
意識をしない様にと思えば思うほど気になる…。

それは慎ちゃんも同じ様で、表情からしてガチガチだ。

二人っきりって、ちょっぴり嬉しい事なのに、こんなんじゃ全然楽しくないよ〜(涙)


そうこうしている間に、夕飯も終わり私は後片付け、慎ちゃんはお風呂へ行った。

片付けが済んだ後、釜戸に残った炭を、火鉢にくべようと慎ちゃんの部屋に入った。
案の定、炭が消えかけていて、部屋はひんやりしている。

「これじゃ風邪ひいちゃうよ」

ごそごそ…

「よーし出来た」

行灯に火も点けて、準備OK。自分の部屋に戻ろうと、出て行きかけた時!

「うわっ!」

「きゃっ!」

お風呂から戻った慎ちゃんと鉢合わせしてしまった。

「わっ、ごめんね!火鉢に炭を入れて…」

ふと顔を上げた私の目に、お風呂上がりの慎ちゃんが写る。
髪を下ろしている姿なんて初めて見た…。ヤバい、ヤバすぎる…めちゃくちゃ色っぽいし格好いい…。
私はしばし、慎ちゃんに見とれて、ポーッとなってしまう。

「ね、姉さん?」

「はっ!!ご、ご、ごめんなさい」

言うや否や、私は猛ダッシュでその場を離れた。



「はああああ、もう最低…」

お風呂に入りながら、ため息を連発する私。
一体、明日の朝、どんな顔して慎ちゃんに会うというのか…。

がっくりした気持ちのまま、お風呂を上がって自分の部屋に戻ろうと、廊下に出たときだった。

「あ…雪だ」

どうりで冷えるわけで…初雪が降っていた。

ちらちらと空から舞う白い雪。

「きれい…」

見とれる私の肩に、ふわっと何かが乗った。

「…雪って、いいっスよね」

慎ちゃんが、私に丹前をかけてくれたのだ。

「あ、ありがと…」

慎ちゃんは、さっきの姿のままで…私の心臓は、これ以上上がりようが無いくらいバクバクしていた。


暫く二人で雪を見ていたんだけど、緊張と寒さには耐え切れず、私は部屋に戻る事にした。

「体、冷えちゃうね。…そろそろ部屋に戻ろっか」

「姉さん…」

「なぁに?」

「…もう少し一緒にいちゃ駄目ッスか?」

胸がキュンと鼓動を打つ。そりゃあ、もちろん一緒にいたいけど…。
何と答えていいかわからなくて、私は黙ってしまう。
すると慎ちゃんは、

「少しの時間でいいッスから…」

と、私の手を引いて、慎ちゃんの部屋に連れていった。
私の頭の中は、超パニック!平静さを装うので精一杯だった。

…火鉢前に並んで座り、乗っていた鉄瓶の湯を使って熱いお茶を飲む。
あぁ、心も体もホッとする。

「美味しいね」

「…姉さん、やっと笑ってくれた」

「あ…はは」

そりゃ、緊張しすぎて笑えなかったたんですって。

「…オレ、さっき何かやらかしたッスか?」

「え?」

「風呂上がり…あの時姉さんヘンでしたよ?」
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