薄桜鬼(短編)

□山茶花(沖田×千鶴)
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京の冬は、江戸より遥かに寒さが厳しい。

特に今年は、去年よりも寒くなるのが早く、毎日の水仕事が既に身に染みる程。

そんな…師走まで、あと数日となったある日の事。



夕餉の後片付けを終わらせた私は、沸かしていた湯を使って、お茶と湯冷ましの準備に取り掛かった。
これは、私の日課。
沖田さんのお部屋へ、持参する為に。


屯所が不動堂村へ移転した頃から、寝込む日が増えていった沖田さん。

一番組の巡察も、月の半分以上は蓮ちゃんに任せて、自室で寝込む事が多くなっていた。


「…千鶴、茶を貰えるかな?」


声を掛けてきたのは蓮ちゃんだ。

沖田さんの代わりを勤める事が増えたから、最近はとても忙しいみたい。

以前は一緒に後片付けをする事も多かったし、同室だから遅くまでお喋り楽しんだけれど。
でもこの頃は、すれ違いが多くて、話をする機会もかなり減っていた。
だから、こんな他愛のない会話でも、ちょっぴり嬉しい気持ちになる。


「今、沖田さんの分を煎れるから、一緒に作るね」

「…ありがと」


急須から零れる柔らかい湯気。
今日みたいに寒い日は、暖かいお茶が何よりのご馳走。だから、丁寧に煎れたくなる。

三人分のお茶を注ぎ終わる頃、蓮ちゃんが懐から何かを取り出して、私に見せてくれた。


「これ…」

「なあに?」


包んでいた懐紙を広げると、中から可愛らしい物が顔を出した。


「あ…金平糖!」

「うん、巡察の途中に…こそっとね」

「ふふ、蓮ちゃんが寄り道なんて珍しい」

「そりゃあ、たまにはな。総司君、これ好物だろ?」

「うん、そうだね」

「渡しておいて」

「え…一緒にお部屋に行かない?三人でお話しようよ」

「…ごめん、土方さんに呼ばれてるんだ。一番組の事で」

「そう…」

「うん。でも、そんなに深刻な話じゃないから、総司君には言わないでくれよ」

「分かった。じゃあ、渡しておくね」

「ああ…よろしく」


そう言って、蓮ちゃんは土方さんの部屋へ行ってしまった。


去り際に、蓮ちゃんの目が、すうっと細められた様に感じたのは…気のせいかな。


はぁ…。

自然とため息が出た。

私って、心の狭い人間だ。

沖田さんと恋仲になって暫く経つというのに、どうしても意識をしてしまう。
ほんの些細な蓮ちゃんの行動に、不安を感じてしまって…。

本当は、蓮ちゃんも沖田さんを好きなんじゃないか…。
本当は、沖田さんも私ではなく…蓮ちゃんが好きなんじゃないかって…。。

それだけ、私から見た沖田さんと蓮ちゃんは、深い絆で結ばれていると…私は思っている。

もやもやとした気持ちを振り払うように、深呼吸をひとつ。

お茶と白湯と薬をお盆に載せて、私は沖田さんの部屋へと急いだ。




「沖田さん…入りますね」

「うん…」


沖田さんは、身体を起こし何やら書物に目を通していた。


「大丈夫なんですか?寝ていなくて…」

「ずっと寝てばかりだから、腰が痛くなっちゃってね。近藤さんから本の差し入れも頂いたからさ」

「そうですか…」


この所、沖田さんは素直に薬を飲んでくれている。
以前は、身体に悪そうな事をわざと好んでやっていたから、かなりはらはらしたものだけれど…。
今は真面目に病に立ち向かおうと、頑張っているのだ。


「沖田さん、これ、蓮ちゃんが」

「ん?……あぁ、金平糖!」

「巡察の時に、お店に寄ったみたいです」

「薬の口直しには、最高だね」


沖田さんは、子供みたいな無邪気な笑顔で、桃色の金平糖を一粒頬張った。


「はい、千鶴ちゃんも…」


同じ桃色の金平糖を、私に差し出す沖田さん。


「…え、でも」

「ほら、あーん…」


断る術など無い私は、おずおずと口を開く。


「…ん」

「ふふ。二人で食べれば、尚美味しい…」


確かに。

口のなかにゆっくりと広がる甘味が、表情ばかりか心まで解してくれそう。


「沖田さんは、何故、金平糖が好きなんですか?」

「あれ、話してなかったかな?」

「はい…」

「金平糖にはさ、色々、思い出があるんだ」

「……」

「…ねぇ、千鶴ちゃん。今、誤解したでしょ?」

「え?」

「だって、困った顔してるもん」

「そ、そんな事…」

「仕方ない。誤解を解くためにも、お話してあげるよ…」


沖田さんが、こうやって自分の過去の話をするなんて、初めてかもしれない。

私は、少し緊張しながら、沖田さんの言葉を待った。






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