奏でる指先
□嵐にしやがれ(前)
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授業が終わり、俺はいつものように逃げ惑うギャル男系後輩(ちょっと気に入ってる)を下半身露出状態で校内追いかけ回し、最後に一発ヤらせてもらった。
(よし!なんか気合い入った!)
そして、気合いも十分に注入したところで俺は設楽さんを捜した。
音楽室の近くまで来ると、中からはいつものようにピアノの音が聞こえていて……
(このドアの向こうに、設楽さんが……!)
俺はいよいよ緊張してきた。
「フゥ……」
深呼吸して、俺はブレザーのポケットから、アナスイのハンドミラー(もちろんデザインは薔薇だ!)を取り出した。
走って乱れた前髪を直し、簡単に見なりを整える。
(……あっ。)
そこで俺は気が付いた。
ズボンとパンツ……
教室で脱ぎ捨てたまんま、履いてくんの忘れた!
(そうか。さっき、日課の“ギャル男系後輩のアイツと校内露出鬼ごっこ”をしてたから……)
俺は悩んだ。
今は、好きな男を初デートに誘う大事な瞬間だ。
設楽さんに声をかける前に一度教室に戻って、ズボンとパンツをちゃんと履いてから、出直してくるべきかもしれない。
(……いや。)
でも、いいや。このままの方が。
もう卒業してしまった人のことだけど……
俺達がまだ中学生で、はばたき学園に学校見学にきた時。
学園を案内してくれた生徒会長(名を赤城という)が、爽やかな笑顔とは裏腹に、下半身を始終露出していたんだ。
俺はその人に強いカルチャーショックを受けた。
そんで、同時にめちゃくちゃ興奮した。
赤城さんは、俺の憧れの人だ。いいや。むしろ俺の師範だ。
あの人がいたから、俺ははばたき学園に入学することを決めたんだ。
そして、あの人みたいになりたいという思いで、俺ははばたき学園入学後、放課後は下半身を露出するようになった。
だから、むしろこの下半身を露出した格好の方が、俺にとっては正装かもしれない。
(堂々としろ!俺!)
もう一度、深呼吸をした。
そして俺は、勇気を出して音楽室の扉を開いた。
「ハァ……ハァ、ハァ……設楽さん!」
「………?」
ピアノの音が、ぴたりと止んだ。