あなた様以外にあちきは
□あなた様は、誰なんしょう?
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「旦那様、もうお代の分はお相手させていただきんした」
「まだ酒を呑んだだけだろう」
「ではお代をいただかねばなりんせんねぇ」
「・・・いくらだ」
いかにも武士という見た目で金はたくさん持っているのだろう。
いくらでも言え、という感じだ。
が、ここで遠慮する綺世(あやせ)でもなく。
「ではあと半刻(一時間)ほど延長で・・・少なくとも五十両、といったところでありんしょう」
「ごっ・・・五十両!?」
「?・・・お代が足りんせん様なので、これにて失礼させていただきんす」
ふわり・・・と優雅にお辞儀をし、スタスタと足早に去って行く綺世。
呆気となる武士などもう知らぬ、と言う様に。
・・・綺世は早々と自室へ帰ると、窓からぼんやり外を眺める。
外はいつでも賑やか。
まぁ、なんと言っても天下の“吉原”だ。
男ばかりで見ていて気持ちのいいものではないが。
もういいか。
と言う様に、最後に下を覗いた。
すると綺世の存在に気付いたらしい男が、綺世の方を指差し、隣の男に何か話している。
そして二人で顔を上げ、綺世に見入っている。
それにつられる様に、周りの奴らも綺世に見入る。
綺世はそれに答える様に、小さく笑みをこぼした。
すると男たちは雪崩の様に、綺世のいる店へ入って来る。
・・・商売繁盛♪