あなた様以外にあちきは

□あなた様は、誰なんしょう?
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「綺世(あやせ)姐さん!」



 元気な声が、戸の向こうから聞こえてくる。
 戸に、小さな人影が映る。


「お入んなさんし、霜葉(そうは)」


 カラリ・・・と戸が開く。

 そこに居たのは一人の少女。
 年は十四、五歳。
 顔立ちは綺世ほどではないが美しく、愛嬌がある。


「どうしたのかや?」


「姐さん指名のお客様です」


「・・・武士の方?」


「いえ、違うと思います。体つきが、全体的に細いので」




 じゃあ稼げそうにありんせんね、と眉をひそめる。
 適当に相手をして、さっさと帰ってもらいんしょう。


 ・・・三十両とれれば良い方でありんす。




「行きんしょう。霜葉、準備」


「はい!」




 髪を結い上げる綺世。

 綺世は髪を結うのが嫌いなのだ。
 だからなのか、接客でない時は髪を下ろしているのが、自然となってしまった。


 そのことをしっかりと心得ている霜葉は、当たり前の様に「準備」と言われれば櫛を差し出し、かんざしを持って来る。


 綺世は慣れた手つきで綺麗に髪を結い上げると、スッ・・・と立ち上がる。





 
 今日の着物は・・・青。
 あちきの一番好きな色でありんす。

 でも、
 どうして好きな色になったのか。

 どうしてでありんしょう?

















 今日の出会いが




 綺世の一生を










 変
   え
 
  た。














 若きおいらんの初恋物語、第一幕の




 幕開け、幕開け――・・・。
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