HERO ACA

□S級犯罪者が、ヒーローたちのヒーローになる話
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『は...?』


目を覚ますと、広い敷地で、太陽がさんさんと輝く下、俺はぶっ倒れていた。


軽く体を確認すると、傷はまだマシになっているものの、完治はしていない。


右腕はちぎれかけてるし、出血もおさまっていない。


目の上から流れてくる血は拭いても拭いても、視界の半分を潰しにかかってくる。


人の気配に体を起こすと、そこには同じ青い服に身を包んだ子供たちが俺のことを遠巻きに見ていた。


「テメェ...敵か!?」


『あ...?ヴィラン...?』


威勢の良さそうな子供が手を爆発?させながら威嚇してくる。


「だ、誰か先生を呼んで来て...!」


緑の髪の子を筆頭に子供たちがざわざわと騒ぎ始めたが、俺の意識は別のところにあった。


"ヴィラン"という単語は、俺の世界になかった定義だ。


トシノリの、"ヒーロー"がいる世界で使われていた言葉のはずだ。


『おい...そこの子』


「ハッ、ハイ!!!」


大げさに肩を揺らした緑の子は、なんだか昔のトシノリを彷彿とさせた。


『ここにはヒーローがいる、のか...?』


表情や態度には出さず、恐る恐る聞いてみる。


「え、あ、、、」





















「"ヒーローがいると分かっている"のによく平然と一人で乗り込んで来れたな」


突如背後に現れた気配に俺はその場を飛び退いた。


ちぎれかけた右腕を引き損ねやけに硬い布で拘束されたが、そのまま引きちぎって捨てた。


「お前...!」


髪の長い男は目を見開き、一部の子供たちは叫び声をあげていた。


腕は回収さえできれば後からくっつけられるし、問題ない...のだが。


『お前の目...写輪眼...?いや...違うな...』


「俺の目がなんだって?」


男の美しく光る赤い瞳に、俺は目を奪われた。


「おい、お前、俺の話聞いてんのか?」


不機嫌そうな男の声も、威嚇するように逆立った毛も、なんだか猫のようで可愛らしいじゃないか。


『綺麗、だ...』


男が再度目を見開かせたが、動揺などは一切態度に表さなかった。


「...そんなことはどうでもいい。お前の目的を言え」


ゆっくり眺めていたいところだが、今の俺は出血が多く、時間があまりない。


慌てて"これからどうするか"を考えた。


まずは、"トシノリ"がいる世界ならあの子に会いに行きたい。


『そうだな...お前、"ヤギ トシノリ"を知っているか?』


「は...?」


『二度は言わない。"ヤギ トシノリ"という男の子を知っているか?金髪の、まだ幼い子供で、"ヒーロー"に憧れているらしいんだが』


そこまで俺が言った時、髪の長い男とは比べ物にならない速度で大男が目の前に立ちはだかった。


迎撃体制を取ろうとしたが、大男の纏う懐かしい気配に一瞬の隙ができた。


そしてそのまま抱きしめるように拘束された。


「「「「「オールマイト!!!」」」」」


子供たちの嬉しそうな声、ホッとした表情を見ると、大男はだいぶ信頼された力の持ち主らしい。


『おい...ぶっ飛ばされたくなかったら俺をはな...せ...?』


腕の中から殺気を込めて大男を見上げると、ソイツは滝のような涙を流していた。


「マコト...だろう!?」


『は...え...?ト、トシノ...トシノリか!?』


「私のことを覚えてくれていたんだな!?」


『え、え...まじかっ...!?』


正直にいうと、俺は混乱していた。


こんな、こんな厳つい男が


あの可愛らしかった"トシノリ"だなんて、俺は認めねぇ...!


「オールマイトさん...知り合いですか?」


「まぁね!彼には小さい頃に助けてもらったことがあるんだ」


大男...もといトシノリは俺の体を優しく地面に下ろした。


『違う世界だ...多少時間の流れは違うかもしれないと思っていたが...まさかこんな厳つい大男に...嘘だろ...』


「HAHAHA!すまないね、"ヒーロー"になるためにあれからだいぶ鍛えたのさ!」


彫りの深い顔で笑う"トシノリ"は、まさに俺が幼い"トシノリ"に聞かされていた理想のヒーロー像だった。


大きくて、強くて、みんなが姿を見るだけで安心してくれそうな、ヒーローになりたいと言っていた。


見た目はだいぶ変わってしまったようだが、中身はーーーあの、まっすぐで素直な"トシノリ"のままらしい。


『そうか...お前が憧れた"ヒーロー"になれたんなら...良かった』


俺の口角は、数年ぶりに自然に上がっていた。







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