HERO ACA

□取り返しがつかないことをした
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マコトは、息をするのも忘れて校庭を見つめた。


なぜなら、校庭の端に見覚えのある衣装をまとった忍達が並んでいたからだ。


門に沿うように一列に並ぶ、見覚えのある暗殺部隊ーーーーーーーー木の葉の暗部だ。


その隊列の中心に立つ男、おそらく部隊長らしい男が何かを校舎に向かって投げ捨てる。


そして、それは校庭の中央にカランと音を立てて落ちた。































木の葉のマークに刻まれた、横一文字の傷がある額当て。


なぜか私はそれの持ち主を確信した。


抜け忍など山のように存在する中で、なぜか私は分かってしまった。


声にならない声が喉奥からこみ上げる。


『・・・・ッァ・・・アァ・・・ァアアアアアアアアアアアアッ!!!!』


校庭に向かって叫んだ私を、教室中と校庭からの視線が貫く。


「マコトくん・・・?」


隣で心配そうにしながら私を見ている麗日さんの小さな呼びかけは、全く耳に入ってこなかった。


「・・・やはり、この世界にいたか」


しかし胸いっぱいに溢れる哀しみを、心の内に留めることはできなかった。


『イタ、イタチィッ・・・!!!』


ポロポロと涙が溢れ出す。


彼との思い出が溢れ出す。


微笑み合った記憶が溢れ出す。


彼の最期を想像して、心の底から何かが溢れ出す。


『き、さまらぁああああああああああああああああ!!!!』


それは、哀しみと、そして、憎悪。





























窓辺を蹴って、校庭へ降り立つ。


『殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!殺してやるぅぁァアアアアアア!!!!!!』


頬に涙を伝わせながら、暗部の隊列へと一直線に駆ける。


「久坂!!!待て・・・止まれ!!!」


"忍者"の個性を止めようと相澤は個性を発動した。


しかし、彼が校庭を駆け抜けるスピードは一向に落ちない。


それは、彼の今の力が"個性"によるものではないことを示していた。


相澤の逆立った髪が落ち、驚愕に目を見開く。


クラス中が先生久坂くんを止めて!!!と叫びながら懇願するが、


相澤は・・・イレイザーヘッドは、少年を止める術を持ち合わせていなかった。



























『死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んでくださいッ!!!!!』


向かってくる暗部をただひたすら斬る。


斬り続ける。


腕が飛ぶ、足が飛ぶ、肉片が飛ぶ、首が飛ぶ。


彼は止まらない。


『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!!!!殺してやりますッ!!!』


叫び声すらあげない暗部たちの四肢が、血が、宙を舞う。


校内からの叫び声は、今の彼には届かない。


ただただ、暗部の無音の断末魔に酔い痴れる。


『アア!ああ!イタチッ!!!痛かったでしょう!?無念だったでしょう!?』


斬る斬る斬る斬る斬るキルキルキルキルキル。


『もう、我慢できませんッ...!どうして貴方がそんな運命を、枷を背負わなくてはいけなかったのです!?!?』


キルキルキルキルキルキルキルキルキルキル。


『なぜ、貴方のような男がッ、こんな、こんなクズたちを守るためにッ!?!?!?』


血が降る血がかかる血を撒く血を纏う。


『自分たちの平和さえあれば、何でも犠牲にできるような奴らのためにッ・・・!!!!』


地を血で染める、己も敵も、真っ赤な血で染める。


『なぜ、貴方の愛する家族と貴方が、なぜッ!!!どうしてッ、犠牲にならなければならないのですッ!?!?』


その場で唯一、彼の流す涙だけが、透明な光を反射していた。


























いつの間にか、その場で息をしているのは、彼だけになっていた。


『それが己の運命だったとでもいうのですか・・・イタチ・・・』


空は憎いほど晴天で、その場に似合わぬ心地よい風がマコトの前髪をスルリとかきあげた。


ただ、今のマコトは、それを不快とも憎いとも思えない、感じられないほど、


心がいっぱいいっぱいだった。



























「ッ・・・久坂・・・」


あまりの惨状に眉を寄せながら苦い顔をする相澤が、マコトに駆け寄る。


少し離れたところにはクラスメイトたちも待機している。


その視線から感じるものは・・・恐怖、畏怖、そして・・・驚愕。


『・・・・・・ぁ』


相澤はマコトを刺激しないよう、様子を伺いつつ彼に歩み寄って行く。


ゆっくりと腕を伸ばして彼の肩に触れようとしたその時ーーーー






























『ァ・・・ア、あはッ、あははははははハハハハハハハ!!!!!!』


突如として、マコトが叫んだ。


頭を抱え、フラフラと相澤から距離をとるように後ろへ下がる。

































『ごめんなさい!!!!私が悪い子でした!!!!!

悪い子!!!!部屋から出て!!!!ごめんなさい!!!!

牢から出てごめんなさい!!!

あは、ァ、ハッ、アハハハハハ!!!!

ご飯を残してごめんなさい!!!!

せっかく母上が作ってくださった毒入りのご飯を残して!!!ゴメンナサイ!!!

可愛い弟を睨んで悪い子です!!!

可愛い妹が石を投げてくれたのに抵抗して悪い子です!!!!











あ・・・・

でも、全員始末できたのはイイ子・・・じゃない、です、ね。






















こっちでは悪い子、ですね』




























腕を伸ばしたまま固まる相澤と怯えきった様子のクラスメイト達を見て、一言。


『・・・やって、しまいました』


とマコトは無表情でつぶやいた。


『相澤、先生・・・ごめんなさい』


震える手で周りの肉片を集め始めたマコト。


相澤は躊躇なく彼の腕を掴み、ソレを止めさせようとした。


「久坂、やめろ」


『やめません』


相澤の腕をふりほどいて、真っ赤なそれらをかき集める。


「何が・・・したいんだ」


彼の狂気ぶりに、相澤は眉を寄せながら彼に問いかけた。


『・・・彼らの供養を』



















彼は、分かっていた。


頭ではきちんと理解していたつもりだった。


イタチは、自分から望んで、進んで生贄になったこと。


イタチは、自分が二度と陽の下で生きないことと引き換えに、弟の生を望んだこと。


イタチは、己が生まれ、育ち、守り、尽くした里を最期の最期まで大切にしていたこと。


でも、現実を見て、彼の死を確信して、今まで無理やり抑え込んでいたマコトの心が爆発してしまった。


『私は・・・』


イタチに、生きて欲しかった。


イタチに、陽の下でサスケくんと一緒に過ごして欲しかった。


イタチに、木の葉の名を背負ったままでいて欲しかった。


『皆さんの前で、ヒーローの前で、取り返しのつかないことをしました・・・』


自分が、死ねばよかった。


自分が、木の葉の操り人形に、生贄になっていればよかった。


自分が、彼のため、


『私は・・・やはり、生きてては、いけなかったんですッ・・・』


死んでいればよかった。















To Be Continued...?

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