名探偵

□逆位置の正義
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『今日の、任務は、コードネームをもらって、初めての、任務だとか?』


「ああ、そうなんだ!失敗なんかしたらコードネーム剥奪だよなぁ〜...そんときゃどうすればいい!?」


満月が真上に浮かび上がった夜、人気のないビルで二人はうつ伏せになった。


片や、向かいのビルのパーティー会場を双眼鏡で覗き込みながら。


片や、その会場で美しく微笑むうら若い女性にライフルの照準を合わせながら。


『スコッチ、射撃は、得意で?』


「え、ああ、得意ってほどじゃないけど...この距離ならはずしたりはしないさ!」


『それは、それは...頼もしい』


スピリタスは見ていた。


彼の震える手を。




























『スコッチ。彼女が、会場を、出てしまいます。狙撃を』


「ッ...!」


『会場内で、始末を、と言われています』


「わ、わかってる...!」


スコッチは女性に照準を合わせる。


だが、どうしても引き金が引けない。


今から、初めて彼は人を殺す。


そして、相手は組織の存在も知らないただの一般人。


旦那が組織の周りを嗅ぎ回ってしまったが故に消されてしまう、若い、上品な、一人の女性。


『スコッチ』


スピリタスが彼を急かすが、スコッチの腕の震えは止まらない。


それどころか、女性に駆け寄る小さな影が見えた瞬間、彼はライフルのスコープから顔を遠ざけてしまった。


「スピリタス...!悪い...!」


スコッチの中の...公安としての正義が、人としての良心が。


どうしても彼に引き金を引かせようとしなかった。


『...スコッチ、銃を、貸してください』















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