名探偵
□逆位置の正義
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スコッチーーーー緑川 唯は、運転席に座っているスピリタスへ驚愕の目を向けていた。
彼は今、ジンに虚偽の報告した。
電話越しでジンの方の声は聞こえなかったが、それでも、その虚偽の報告が通ってしまったことだけは、彼にもハッキリと分かった。
「どうして...嘘の報告を...?」
『...人間誰しも、得意、不得意が、ある、ものです』
先刻ーーーーーー結論から言うと、スピリタスがターゲットを狙撃した。
ざわめく会場も、母親の亡骸を揺らす子供も、2人からはしっかり見えていた。
『スコッチ、ビルのガラスに、入ったヒビで、ここも直に、バレるでしょう。急ぎ、撤収を』
「あ、ああ!少し待ってくれ」
スコッチはライフルをギターケースに隠し、硝煙などの痕跡を全て消していく。
スピリタスはその様子をスコッチのやや後ろから見ていた。
そして、痕跡を完全に消し終えたスコッチを引き連れ、足音を一切鳴らさずにビルの外階段を降りていった。
しばらく歩くと、スピリタスの愛車ーーー深い紺色のメルセデス・ベンツーーーが、深夜にもかかわらずまだ人で溢れかえっている大通りに停めてあった。
スコッチはこんな人目につくところに停めていたのかと目を見開いたが、それを察したようにスピリタスが口を開く。
『木を隠すなら、森の中』
さっさと車に乗ってしまうスピリタスを見て、スコッチもあわてて助手席に乗り込んだ。
そして、彼はエンジンをかけながら、助手席に乗り込んできたスコッチに確認するように聞いた。
『スコッチ、機械類の操作は、得意で?』
先ほどから表情を変えない彼の突然の問いに、スコッチは肩を少しビクつかせた。
「そ、うだな...情けない姿を見せたばかりで信じてもらえるか分からないけど、狙撃が1点なら、盗聴とか警備機器のハッキングは80点ぐらいかな」
『ふふ、なんとも頼もしい、かぎりで。分かりました、ジンに報告するので、彼と話し終えるまで、静かに』
しーっと人差し指を口に当てると、スコッチは静かに頷いた。
スピリタスは番号が発信された電話をゆっくりと耳に当てた。
『ジン、本日の、報告を』
スコッチの表情が暗くなる。
彼は自身の膝上で硬く握り締めた拳に視線を落とした。
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