名探偵

□あの子には、もう、"視えない"
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数年後ーーーーー


雅治は高校に上がる年齢になってすぐ家を放り出された。


健康保険証と、小遣いのような金額の手切れ金だけを突きつけられて。


十年ぶりに部屋から出されてリビングまで呼ばれた時点で、そんなことだろうと予感はしていた。


封筒に入れたそれらを渡してくる父親の顔からは、なんの表情も読めない。


一緒に過ごしていれば、この顔からも表情が読めたのだろうか、と雅治は思った。


そして、母親の方は小さな箱を握りしめているだけで、こちらを見向きもしなかった。


横顔から彼女の表情は...読めない。


手荷物はそれらと、数着の衣類だけだった。


すでにまとめられた荷物を持って玄関まで行くと、後ろから零がとびついてきた。


「兄ちゃん、どこいくんだ?母さんたちに内緒で俺も連れてってよ!」


生まれて初めて兄が部屋から出ているのを見た零は、今日は家族で初めてのお出かけかと興奮している。


雅治は内心締め付けられる想いだった。


コソコソ話のつもりだろうが、声がかなり大きい。


当然リビングにいる両親にも筒抜けだろう。


それでも"今生の別れ"だと今だけは気を遣ってくれているのか零を呼ぼうとしたり、無理に引き剥がそうと玄関までやってくる気配はなかった。


『...零』


「なーに?」


『少しだけ、旅行にいってくる。母さんや父さんと家で留守番できるな?』


「旅行?いいな〜兄ちゃん一人で行くのか?」


『ああ...いや...友達と、な』


突如として二人の足元に現れた水かまりが、わずかにパチャンと音を出した。


賢い弟はそれで"友達"が誰か分かったらしい。


「...!そっか、わかった!おみやげ待ってる!」


ニコニコと笑う零。


二度と会えないだなんて...全く考えちゃいないだろう。


雅治はそんな弟の愛おしさを体に刻み込むようにぎゅっと力強く抱きしめる。


「兄ちゃん痛い!ってか恥ずかしいって!」


『...ごめんな、零』


「?いいよそれぐらい!」


何に対しての謝罪なのか、目の前の弟はきっと分かっていない。


雅治は1組のトランプを手渡した。


『零、お前にこれやるよ。だからこれで遊んで待っててくれ』


「兄ちゃんからプレゼント...!?一生大事にする!」


『フッ...じゃあな、零。いってくる』


「いってらっしゃい!兄ちゃん!気をつけてね!」


兄からもらったトランプを握りしめながら、弟は兄の後ろ姿が見えなくなるまで手を振った。































その後、何年も兄に会えない日が続くとも知らずに。





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