名探偵

□あの子には、もう、"視えない"
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ーーーーー2人が再会したのは、両親の葬式の場でだった。


葬儀場の外では土砂降りの雨が降っていた。


中学生の降谷 零は呆然と親族席に座り、焼香を終えた参列者たちに機械のように頭を下げていた。


「両親一緒にいなくなるなんて...かわいそうに...」


「強盗殺人事件ですって...」


「1階にいた両親だけ殺されるだなんて...」


「子供が助かったのは良かったけど...どうするの、あの子...」


「うちは無理よ、旦那が転勤多いし...」


「あそこお兄さんがいたんじゃなかった?」


「ちょっと...知らないの?何年も前に家を出てってそれきりだそうよ」


「出てった?私追い出されたって聞いたけど...」


「シッ!そんなのみんな分かってるわよ...どうするのあの子に聞こえたりしたら...」


周りの雑音を聴きながら、彼はただただ二人が静かに眠る棺桶を横目に見るばかりだった。































強盗殺人事件、犯人は不明。


休日に、降谷家を襲った悲劇だった。


現場には奇妙な人形が一体落ちており、それは血に濡れたカミソリを握りしめていた。


被害者はカミソリで喉や手足を切りつけられており、付着していた血液から事件の凶器であると断定されたが、他に残されていた指紋や髪などのDNAなどは被害者2名のものしか検出されず、犯人は依然として不明。


迷宮入りの可能性が非常に高い事件となった。


また、1階にいた両親は惨殺されたが、2階の部屋にいた次男の降谷 零は助かっている。


そんな奇妙すぎる現場で、どうして彼が容疑者として挙がっていないのか。


それは2つのアリバイと、1つの証言があったからである。


1つ目のアリバイ。


それは、二人の叫び声が近所にも漏れる中、2階の窓から「1階から両親の声が聞こえるが、部屋の鍵が開かなくて降りられない、助けてくれ」と零本人が近所の人たちに助けを求めていたこと。


そして2つ目のアリバイ。


事件発生当時、次男の部屋の鍵は壊れており、扉が開かなかったこと。


本人曰く「建て付けは悪くなかったはずなのに」とのことだが、母親の手帳に"零の部屋の鍵の調子が悪い、業者に修理してもらうこと"と書かれており、実際に2日前の日付で父親のパソコンから修理業者に依頼メールが出されていた。


「事件時に無理に開けようとして、何度か体当たりはした」という次男の証言から、警察は"建て付けがやや悪かったものを幸か不幸かさらに歪めてしまい開かなくなった"と推測している。


そして証言というのは、近所の人たちからの証言である。


両親はそれはそれは息子の降谷 零を猫可愛がりしており、息子には動機がないというものだった。


完璧なアリバイと周りの証言から警察は"降谷 零"を容疑者リストからはずした。


代わりに、十数年連絡がとれていないという"降谷 雅治"をリストに追加し現在調査中である。




























『零ッ、』


葬儀場でふと呼ばれた自身の名前に、零はゆっくりと顔を上げる。


そこにはずぶ濡れで白いパーカーを被った青年が、荒い息を整えながら立っていた。


周りが誰だ?と注目する中、零だけはその人物なのか分かった。


「に、ぃ、さん...?」


雅治はフードをとり、弟と目線を合わせるように腰を落とした。


『...こんなに窶れて。かわいそうに』


ここ数日でできたであろう弟の隈に優しく触れ、頭を優しく撫でる。


零は目の前の兄が夢でないかと手を伸ばし、その頬に触れた。


「汗...かいてるし、びしょ濡れだ...」


『ハハッ、そりゃそうだ。傘もささずにとんで帰ってきたんだぞ』


「え、帰って...?帰ってきてくれたのか...?」


『ああ、そうだ』


目をパチパチさせる零を雅治は優しく抱きしめて、耳元で小さく囁いた。


『...ただいま、零。すぐに駆けつけてやれなくてすまなかったな。俺と一緒に暮らそう』




























零は安堵感からその日初めて、声を上げて泣いた。


事情聴取の時も、綺麗に死化粧を施された両親を見たときも流れなかった涙は、決壊したダムのように雅治の服に大きなシミを作った。













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