白雪解けゆく

□第一章-遅春
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――今でも思い出すあの笑顔。

好意を表してくれた数々の言葉。


私は彼から沢山の物を貰った。



だけど、私は何も返せていない。

返すどころか彼を酷く傷つけてしまっただろう。


それでも……それが彼の為、大好きな彼が幸せになる為。





そう、自分に言い聞かす。































夕暮れの校舎。


私が見つめる先にあるのは、中学の時とは違う場所にあるテニスコート。

知らない人ばかりの中に混じる馴染みの顔。



その中に――





彼は居ない。





もうすぐ4月も終わるというこの時期。

私は治療を終えて戻ってきた。


フランスでの治療は無事成功。

視力が元に戻った訳ではないけれど、これ以上の進行を止めることが出来たのだ。成功だと言えるだろう。



だから私はこうして日本に戻ってきた。

だけど……





本当は日本に戻ってくることが怖かった。

戻ってきて、赤也に会ってしまうことが。


私は赤也に酷いことをしてしまったから、彼に会ってもどんな顔をすればいいのかが分からない。

それに、もしかすると彼は私のことを恨んでいるかもしれない。あんな風に冷たく突き放した私のことを。



それを考えると怖かった。





「……優里?」


俯く私の背後から不意に聞こえてきた声。

私は顔を上げ、振り返る。



『あっ、幸村くん』


振り返った先には、驚いたような表情を浮かべている幸村くんの姿があった。



「驚いたな。学校に戻ってくるのは明日からだって聞いていたから……まさか優里がいるなんてね」


そう言って彼は優しく微笑んだ。



『うん。ちょっと先生たちに挨拶しておこうと思って』


私の言葉に彼は納得したように「そうか」と、頷く。

そして、





「お帰り、優里。治療の成功……おめでとう」

『ありがとう。幸村くんも退院おめでとう』


お互いの復帰を祝いながら私たちは笑い合う。



「ああ、そうだ。部活も終わったからみんなで帰るんだけど、久しぶりに優里も一緒にどうだい?」


彼の誘いに私は戸惑った。



『あ、えっと……』


みんな、ということは赤也もいるのだろうか。

もしそうなら、私は……




「安心して。赤也ならいない」


私の気持ちを察したのか、幸村くんは少し困ったように笑いながらそう付け足した。

いない、の一言に安心した私はほっと胸を撫で下ろす。



『それなら私も一緒にいいかな?』










*

*

*










校門の前で幸村くんたちがやって来るのを待っていると、賑やかな話し声が近づいてきた。



「――それでさあ、俺が食おうとしてたケーキをジャッカルの奴が……」


先頭に立って何やら説明をしていたブン太と私の視線がバチ、っと合う。



「なっ……」


その彼の目が驚きを表すように、大きく開かれていく。



「な、なんで優里が居るんだ!?」


私を指さしながら声を上げた彼に、他の仲間たちもの視線が一斉にこちらへと集まる。

その彼らの表情もブン太と同様。驚きに満ちていて、その中で幸村くんだけが楽しげに笑っていた。


どうやら幸村くんは私が来ていることを話していなかったようだ。

驚く仲間たちの姿に私もくすり、と小さな笑みを漏らした。










変わらない場所、変わらない仲間たち。

一つ違うのは――彼が居ないこと。





〔To Be Continued...〕

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