白雪解けゆく

□第一章-遅春
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「――チーズバーガと照り焼きバーガーとポテトLサイズ。それととチョコシェイクに、アップルパイ!あとは……」

「丸井くん、少々頼みすぎなのでは?」

「そんなことねーだろぃ?」


正門の前で合流した私たちは近くのバーガーショップへとやって来ていた。

久しぶりにこのメンバーが揃ったのだから話でもしよう、ということになったのだ。



「俺たちは席に座っとるけえ、注文は任せるぜよ」

「おう!」

「分かりました」


仁王はブン太と柳生にそう言い残すと、二階へと上がっていく。

残りのメンバーと私は仁王の後に続いた。










*

*

*










席に着いてしばらく経った頃だ。

両手にトレイを持ったブン太と柳生が席へとやって来たのは。



「おいおい……。何なんだよ、その量は」


呆れたようにトレイを見つめるジャッカル。



「大した量じゃねーよ?」


そう言ったブン太の手には二つのトレイ。その上には山積みにされたバーガーやポテトたち。

ブン太の後ろに居る柳生も同じようなトレイを二つ持っていた。


みんなが唖然としながらそれを凝視する中でブン太は一人、上機嫌で席へ着く。


その様子が可笑しくて、私は思わず笑みを漏らした。





『ふふっ、ブン太は変わらないね?』

「そうか?」


首を傾げながらシェイクを啜る彼に「そうだよ」と、笑って返す。










――それから私たちは様々な話をした。


私がフランスへ行っている間、学校で起きた出来事。

高校のテニス部のこと。


日常で起きた沢山の話しは、私を楽しませてくれた。



その話の中に彼の……赤也の話題が出てこなかったのは、きっと私に対しての気遣いなのだろう。


全てを知っている彼らの優しさ。

その優しさが嬉しくもあり、心苦しくもあった。










そんな風に彼らとの時間を過ごしている時。

突然、一人の女の子がこちらへと駆け寄ってきた。



「あっれえー?幸村元部長たちじゃないですか!」


元気そうな可愛い女の子。

その子の登場に、みんなの表情が一瞬だけ固まったような気がした。





「花園さん……。今日は一人?」


最初に口を開いたのは幸村くん。

いつものように穏やかな声色でそう訊ねる。



「えー?舞華は一人でなんて来ませんよ!今日は――

……ああっ!」


花園さんと呼ばれた彼女は言葉の途中で突然、大声を上げた。

何事かと驚く私たちを気にも留めず、彼女は一点を指さしてから続ける。





「真田元副部長がハンバーガー食べてますよ!やだ、似合いませんねー」


そう言ってけらけら、と笑いだす彼女。


私はちらり、と真田の様子を盗み見る。

すると、彼は怒りからか。体をプルプル、と震わしていた。


それに気付いた仲間たちが慌てて話を逸らす。





「一緒に来てる相手が居るんじゃったら、早うそいつん所に戻りんしゃい」

「はーい」


仁王の言葉に元気よく返事を返した彼女は「それじゃあ」と、言い掛けて止まった。



「その人って……」


彼女の視線が私へと注がれる。



「ああ、彼女は俺たちのともだ――「おい、舞華!」


幸村くんが私を紹介しようと口を開いたのと同じくらいのタイミングで聞こえてきた第三者の声。



「お前、トイレ行くだけでどんだけ時間掛かってんだよ」


それは少し懐かしく、よく聞き慣れたものだった。



「……って、ん?

ああっ!幸村部長たちじゃないっスか」

「偶然だ、ね。……赤也」


彼――赤也は幸村くんの姿を見つけると、嬉しそうな表情で駆け寄ってくる。

そんな彼に幸村くんは困ったような笑みを浮かべた。



「本当に偶然っ、ス……ね」


幸村くんの目の前で止まった赤也。彼と私の視線がばちり、とぶつかる。


これでもかって程に大きく見開かれた彼の目。

私たちは何も言わず、固まったままで互いを見つめ合う。





僅かに流れた沈黙。

それを破ったのは彼女だった。



「――えーっと。先輩、ですよね?」


小首を傾げながら私に目をやった彼女に、幸村くんが頷く。



「うん、彼女は優里。俺たちの友達だよ」

『あっ、初めまして!高等部一年の神崎優里です』


私は彼女へと向き直ると、慌てて挨拶をする。



「中等部三年で男テニマネしてます!花園舞華でーす」


同じように挨拶をした彼女はにこり、と一つ笑顔を見せると突然、隣に居た赤也の腕を引き寄せた。



「お、おい!」


驚く赤也を無視してその腕に自分の腕を絡ませた彼女は、言葉を続ける。



「あと、赤也の彼女やってまーすっ。……優里先輩、仲良くして下さいね?」


それを聞いた瞬間、私の頭は真っ白になった。



赤也の彼女?

この子が赤也の彼女。





そっか。

彼はもう――





新しい幸せを見つけたんだね。










『あ、うん!よろしく……ね?』


辛うじて笑顔を作った私は、それを言うのが精一杯で。

彼女と彼の顔を見ることなんて出来なかった。










それは、確かに望んだこと。

私自身が望んだこと。


彼の幸せを考えた結果。



それなのに痛むこの胸は、どうしてこんなにも自分勝手なんだろうか。








私はやっぱり我が儘だ。





〔To Be Continued...〕

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