白雪解けゆく

□第一章-遅春
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-切原赤也-















「……遅い」


バーガーショップの店内で俺は一人、席に座りながらイライラしていた。



「舞華のやつ、何してんだよ」


トイレに行ってくる、そう言って席を立った舞華。

その彼女が15分を過ぎても戻ってこないのだ。





「……はあ、しょうがねーな」


俺は一つため息を零すと、彼女を探しに席を立った。










*

*

*










店内をキョロキョロ、と探し回っていると彼女の後姿が見えた。

俺は彼女へと近づき、声を掛ける。



「おい、舞華!」


俺の呼びかけに振り返る彼女。



「お前、トイレ行くだけでどんだけ時間掛かってんだよ」


そう言って彼女に視線を向けた俺は、その後ろに見知った顔があることに気が付く。



「……って、ん?

ああっ!幸村部長たちじゃないっスか」

「偶然だ、ね。……赤也」


予想もしなかった人物の登場に俺はイライラしていたことも忘れ、笑顔で近寄った。

そしてぐるり、と辺りを見渡したその時。



「本当に偶然っ、ス……ね」


この場に居るはずのない彼女――優里先輩と俺の視線が交じり合った。


俺たちは互いに目を見開き、固まる。

どうして彼女がこの場に居るのか、そんなことなど考える余裕もないくらいに俺の頭の中は真っ白になっていた。










そんな何とも言えない空気の中。

最初に言葉を発したのは舞華だった。



「――えーっと。先輩、ですよね?」


小首を傾げながら優里先輩へと視線を向ける。



「うん、彼女は優里。俺たちの友達だよ」

『あっ、初めまして!高等部一年の神崎優里です』


幸村部長の言葉に続くようにして挨拶をする彼女。


ふわり、と優しく微笑んだその表情はあの頃と何一つ変わりなくて。

それが俺の胸を締め付けた。





「中等部三年で男テニマネしてます!花園舞華でーす」


笑顔で挨拶を返した舞華。

その次の瞬間。彼女の隣に居た俺の腕が突然、引き寄せられた。



「お、おい!」


そのあまりにも突然すぎる行動に俺は戸惑いながらも、その腕を振り払おうと必死になる。



けれど――





「あと、赤也の彼女やってまーすっ。……優里先輩、仲良くして下さいね?」


彼女が次に発したその言葉。

それによって俺の思考は停止することになった。



にこにこ、と嬉しそうに優里先輩へと笑い掛ける舞華。

そして先輩も、



『あ、うん!よろしく……ね?』


そう、笑顔で答えたんだ。










*

*

*










――それから直ぐ。

俺と舞華は自分たちが座っていた席へと戻ってきた。





「……何で、あんなこと言ったんだよ」


すっかり冷めてしまったポテトをつまみながら、低く声に出す。



「あんなことってー?」


彼女はさっぱり分からない、といった様子で俺を見る。



「俺たちが付き合ってることだよ!」

「いいじゃない。本当のことでしょう?」


彼女が言う通り、俺たちが付き合っているのは本当のこと。


――だけど、知られたくなかったんだ。

優里先輩にだけは知られたくなかった。





「だからって態々、言うこともねーだろ!」


ダンッ、とテーブルを叩き、怒鳴りつけるように声を荒げた俺。

周りに居る他の客たちが何事かと、驚きながらこちらの様子を盗み見ている。



「……そんなに知られたくなかったんだ」


彼女が小声でなにかを呟いたけれど、その言葉を聞き取ることは出来なかった。



そのまま黙り込む彼女に、俺は次第に冷静さを取り戻していく。

こんなの、ただの八つ当たりだ。





舞華が優里先輩に俺たちが付き合っていると話した時。

本当は少し期待していた。


もしかしたら先輩は悲しそうな顔をしてくれるかも、って。

そうしたら、それはまだ俺のことを気に掛けてくれている証拠だ、って。



――でも、彼女は笑顔だった。


気まずさで彼女の顔を真っ直ぐに見ることは出来なかったけれど、それでも彼女は言っていたんだ。

笑顔で「よろしく」と、何も気にしていないかのように。



その事実が悲しくて、悔しくて、寂しくて。

俺は舞華に当たっていたんだ。





「……悪かった、な」


俯きながら謝罪する俺に舞華は「うん、いいよ」と、笑顔で許してくれた。

そんな彼女に申し訳なさを感じる。










もう、終わってしまった俺たち。

それなのに俺は、いつまでも夢見てしまう。期待してしまう。


忘れきれない。

ずるずる、と引きずるこの気持ちが周りを傷つけるというのに。



俺はなんて自分勝手で、なんて愚かなんだろうか。










俺はやっぱり彼女しか見えなかった。





〔To Be Continued...〕

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