白雪解けゆく
□第一章-遅春
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――それは、一目ぼれだった。
運命の人だと思ったの。
だけど、その人は奪われてしまった。
悔しくて、憎らしくて、悲しくて。
私が出来るのは幸せそうにする二人を見ていることだけ。
……けれど。
そんな私に神様はチャンスを与えてくれた。
そしてやっと手に入ったの。
だからもう奪われたくない。
誰にも――
誰にも私の幸せは渡さないから。
白雪解けゆく
-花園舞華-
「……何で、あんなこと言ったんだよ」
私の目の前に座っている赤也は冷めたポテトをつまみながら、不機嫌そうに口を開いた。
――あんなこと。
彼が言ってるのは私が優里先輩に話したことについてだろう。
「あんなことってー?」
彼が何のことを指しているのか分かっているくせに、私は分からないフリをする。
「俺たちが付き合ってることだよ!」
「いいじゃない。本当のことでしょう?」
嘘じゃない、本当のこと。
私は赤也と付き合ってる。それは事実だ。
「だからって態々、言うこともねーだろ!」
ダンッ、とテーブルを叩き、怒鳴りつけるように声を荒げた彼。
周りから感じる視線など気にならない程に、私の気持は沈み込む。
「……そんなに知られたくなかったんだ」
私はそう、彼には聞こえないように呟いた。
私は知っている。
――本当のことを。
赤也と優里先輩の関係も、赤也の気持ちが私になんて向けられていないことも。
でも、そんなの関係ない。
だって神様は私にチャンスをくれた。
奪われてしまった彼を取り返してくれたんだ。
「……悪かった、な」
黙り込む私に、彼は気まずそうに謝罪をする。
「うん、いいよ」
そんな彼に対して私は笑顔で返した。
彼は知らない。
本当の私を。
彼は知らない。
あの日のことを。
だけど私は知っている。
自分の醜さを。
あの日の真実を。
だけど、そんなこと関係ない。
だって私はチャンスを掴んだから。
だからもう離さない。
もう見ているだけなんて嫌なの。
ねえ、今度は貴方が見ている番だよ?
貴方が手放した幸せは私が貰ってあげる。
後悔したって遅いんだから。
〔To Be Continued...〕