白雪解けゆく

□第一章-遅春
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その気持ちに気付いた時。

お前は手が届かない存在になっていた。


だけど、幸せそうに笑うお前を見て俺はこれでいいんだ、とそう思ったんだ。

お前が幸せなら、それでいい。

柄にもなくそんなことを思ってこの気持ちに鍵を掛け、蓋をした。


……それなのに、それなのに、今にも泣き出しそうなお前の顔を見て俺は――





後悔したんだ。

















-丸井ブン太-















「――嘘、だろぃ?」

「……本当だよ」



その言葉に俺は自分の耳を疑った。

だってありえない。そう、思っていたから。



「でもっ、なんで!」

「なんで、か。……なんでだろうね?

でも、優里は赤也を嫌いになって別れたわけではない。それだけはハッキリしているかな」

「それならどうして!どうして、なんだよっ……」



優里が赤也と別れたと知ったのは、冬休みが明けてからのこと。

無事に退院してきた幸村くんの口から聞かされたそれは、俺の頭を混乱させた。





――それから数日後。

テニス部に新しいマネージャーが入ってきた。


新しく入って来たそのマネージャー。

そいつから発せられた言葉に、俺や仲間たちは目を見開くことになる。





「花園舞華!赤也の彼女でーすっ」


元気いっぱい。嬉しそうにそう語った彼女。

俺はその言葉が信じられなかった。


いくら別れたからって、あんな優里にべったりだった赤也がこんなに早く次を作るはずがない、と。



……けれど、赤也は否定しなかった。

俺がどんなに問い質しても、言葉を濁すばかり。



そんな彼の態度に俺は何だか裏切られたような気分になった。





――そしてこの間。

バーガーショップでの出来事。


赤也と花園のやり取りを見た時の、花園の言葉を聞いた時の、優里の悲しそうな表情。

悲しそうに、でも無理やりに笑う彼女を見て俺は思った。



俺なら彼女にあんな顔はさせないのに。その存在を手放したりはしないのに。……他になんて目を向けないのに、と。



だから、だから……










『――太、ブン太!』


頭上から聞こえてくる呼び声。

それによって俺の思考は現実へと引き戻される。





「……優里?」

『もうチャイム鳴ったよ?今日はみんなでお昼の約束してたでしょ』


言われて辺りを見渡す。

すると彼女の言葉通り、もう昼食の時間のようだった。



「そう、だったな!」


俺は急いで立ち上がると優里の腕を掴み、引っ張る。



「ほら!早くしないと昼休み終わっちまうぞ」

『ブン太が寝てるのが悪いんでしょ!』


頬を膨らませて怒る彼女に俺は「寝てねーよ。考え事してただけ!」と、返す。



『考え事って?』


きょとん、としながら不思議そうに問う彼女。



「……うーん、秘密?」










鍵を掛け、封じ込めたはずのこの想い。

悲しむお前を見て、それはいとも簡単に溢れ出す。


この想いが全て溢れ出てしまうまでに、きっとそう時間は掛からない。










お前の幸せは今どこにある?





〔To Be Continued...〕

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