白雪解けゆく
□第一章-遅春
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――彼との偶然の出会いから数週間。
あの日から、まだ一度も会っていない。
このまま、このまま出会うことなく過ごせれば……
そう、思っていたのに。
白雪解けゆく
「久しぶり…っスね」
少し気まずそうな笑顔を見せながら、私の前に立っているのは赤也。
『そう、だね』
私は視線を少し逸らし、笑顔を作って返す。
――高等部と中等部の校舎を繋ぐ中庭。
そこで偶然にも鉢合わせてしまった、私たち。
普段は近寄らないこの場所。
それを今日に限って近寄ってしまったことに後悔しながら、私は視線をさ迷わせる。
「あのっ、優里先輩!俺――」
何とも気まずい空気の中で口を開いた彼。
彼が何を話すのか。それを聞いてしまうことが怖くて、私は咄嗟に言葉を被せた。
『赤也!……彼女、出来たんだね?可愛い子だし、よかったじゃない。おめでとう』
早口でそう言った私は、逃げるように次の言葉を続ける。
『じゃあ、私は急ぐから!』
そのまま足早に彼の横を通り過ぎ、この場を離れようとする私の背中に呼び止めの声が掛けられた。
「優里先輩っ」
思わず止まる私の足。
困惑する気持を隠し、振り向かず言葉を口にした。
『……なに?』
その遣り取りは、まるであの別れの日のようで。
ズキズキ、と胸が痛くなる。
「俺はガキだから先輩に嫌われても当然かもしれない。だけど!俺はいくら先輩に嫌われても……先輩を嫌いになることなんて出来ない、んスよ」
振り返って駆け寄ってしまいたくなるようなその言葉。
でも、ここでそれをしてしまったら意味がなくなってしまう。あの日の意味が……。
『ダメだよ。そんなこと言ったら、ダメなんだよ?』
それだけ言うと、私は走り出す。
後ろから彼が私を呼び止める声が聞こえても、今度はその足を止めることはなかった。
ダメなんだ。
私たちはもう、ダメなんだよ。
貴方には彼女が居る。
あんなに可愛い彼女が。
……それにね。
私にはもう――
貴方が見えない。
昔のように貴方を見ることが出来ないの。
だから私は振り向いちゃいけない。
〔To Be Continued...〕