白雪解けゆく

□第二章-夏風
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私はまだ、一度も聞いていない。

だけど彼女は聞いたはず。


私はまだ、一度も見ていない。

だけど彼女は見ていたはず。



彼女にあって私に足りないモノ。

それは――





彼から注がれる愛情。

















-花園舞華-















「――ねえ、聞いてる?……赤也ってば!」

「あ、ああ。聞いてる、聞いてる」


昇降口で靴へと履き替えていた赤也は上の空で答えた。



……最近の赤也は私を見てはくれない。

いつも遠くに居る誰かを、優里先輩を想っている。


彼は始めから私なんて見てはいなかったけれど、それでもずっと付き合ってくれていた。

私の目を見て、話を聞いて、ちゃんと答えてくれていたの。



それが――





彼女と再会してから変わってしまったんだ。


彼女の存在が私から彼を引き離す。

私から彼を奪おうとする。



なんて忌々しい女。

離れて尚も彼の心を掴んで離さないなんて。










「……ねえ、赤也」


正門を潜り抜けたところで足を止め、彼へと向き直る。



「何だよ、急に止まったりなんかして」


私の足が止まったことに気が付いた彼が、少し不機嫌そうにそう言った。

そんな彼の顔をじっ、と見つめる。





「好きって言ってよ」


私は彼の腕を掴むと、徐に口にした。



「……は?」

「舞華のこと好きだ、って言って」


まだ一度だって彼の口から聞かされたことのないその言葉。

きっと彼女は毎日のように聞かされていたはずのに。



「なにバカなこと言ってんだよ。……ほら、帰るぞ」


彼はそう言って私の手を振りほどいた。

その彼の行動に私は小さく唇を噛む。



「……どうし、て」


どうしてなのよ。

私は、私は――



「舞華は赤也の彼女でしょ!……どうして、好きだって言ってくれないのっ?」


私は彼女なの。赤也の彼女。

だけど、それはただの肩書きに過ぎない。



……でも、それでもよかった。

彼女さえ、戻ってこなければ。





「舞華……俺さ、もうお前とは――」


視線を下げて言葉を口にする彼。

その先は聞かなくても分かる。


だから私は彼の腕を思い切り引き寄せ、自分の腕を彼の首へと回し――





その口を、塞いだ。





「―――っ!」


彼が驚く様子を間近で感じながら、薄らと目を開く。

目を見開きながら固まる彼を見て私はゆっくり、と唇を離した。



そして、彼の後ろで同じように固まっている人物へと笑顔を向ける。





「あれぇ?優里先輩じゃないですかー!」


態とらしく彼の腕へと絡みつき、彼女へと見せつけた。



『あっ、その……偶然、通り掛かって。

――ごめんなさいっ』


彼女はそれだけを言うと、顔を真っ赤にさせて慌てたように走り去る。

私はそんな彼女の姿を笑顔で見送った。










彼女にあって、私にはないモノ。

それは彼から囁かれる愛の言葉、愛情の眼差し――





彼の心。



それでも私は離したくない。

それでも私は返したくないの。





私だってずっと好きだったんだから。





〔To Be Continued...〕

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