白雪解けゆく
□第二章-夏風
1ページ/1ページ
そこに気持ちなんてなかった。
初めに声を掛けられたから、ただそれだけの理由。
先輩を忘れる為に彼女を利用しようとしただけ。
……それでも、忘れることなんて出来なかった。
忘れるなんて初めから無理なことだったんだ。
そのことに気付いた時、彼女に別れを告げてればよかった。
告げられなかったのは――
俺の中途半端な情のせい。
白雪解けゆく
-切原赤也-
――優里先輩と出会う度に、その姿を見かける度に、俺の想いは募っていく。
心の中にあるのはいつだって彼女の存在だけで。
どうしても忘れることなんて出来ず、この気持ちを終わらせることが出来ない。
「……ねえ、赤也」
舞華と一緒の帰り道。
突然、歩くのを止めた彼女に俺は「何だよ、急に止まったりなんかして」と、言い視線を向けた。
彼女は俺の顔をじっ、と見つめながら口を開く。
「好きって言ってよ」
そう言いながら俺の腕を掴んだ彼女。
「……は?」
「舞華のこと好きだ、って言って」
最初は何を言われたのか分からなかったけれど、次に彼女が発したその言葉で理解する。
だけど、俺はそれに答えることなんて出来ない。
「なにバカなこと言ってんだよ。……ほら、帰るぞ」
ため息を吐きながら彼女の腕を振り払い、背を向ける。
「舞華は赤也の彼女でしょ!……どうして、好きだって言ってくれないのっ?」
そう叫んだ彼女の言葉が俺の頭の中に響き渡った。
優里先輩のことを忘れる為に、俺は舞華のからの告白に頷いた。
他に目を向ければ忘れられる。そう思っていたから。
――だけど、無理だったんだ。
忘れようとすればする程、その存在は大きくなるばかりで。
そして俺は気が付いた。
俺には優里先輩……彼女しかいないんだ、と。
そのことに気が付いた時、舞華に別れを告げればよかったのに。
それを告げられなかったのは、告げられた相手の痛みを知っていたから。
……でも、もうこんなことは終わりにしよう。
気持ちもないのに付き合い続けることは舞華の為にも、俺の為にもよくないんだ。
「舞華……俺さ、もうお前とは――」
決意を固め、自分の気持を伝えようとした時だった。
「―――っ!」
不意に腕を引き寄せられたかと思うと、次の瞬間に感じたのは唇に何かが当たる感覚。
それが何かを理解した時、俺の頭は真っ白になった。
意識が飛んでしまったかのように身動き一つ取れなかった俺。
そんな俺の耳に入ってきた言葉は激しい衝撃を与えた。
「あれぇ?優里先輩じゃないですかー!」
『あっ、その……偶然、通り掛かって。
――ごめんなさいっ』
どこか嬉しそうに笑う舞華の声に続き、聞こえたのは優里先輩の声。
慌てた様子の彼女は顔を真っ赤にさせながら、一目散に走り去った。
「――優里先輩っ」
急いで彼女の後を追おうとする俺の腕をしっかり、と掴み止めたのは舞華。
「待って、どうして赤也が追いかけようとするのよ!」
不機嫌そうに眉を顰め、そう問う彼女の手を払いのける。
「お前には関係ない!」
それだけ言うと俺は走り出す。
ただ優里先輩を見つけることだけを考えて。
いつだって俺の心にあったのは一人だけだった。
そんな存在を忘れるなんて、俺に出来るはずもなかったのに。
こんなにも当たり前なことがどうして分からなかったのか。
――これは俺の後悔。
〔To Be Continued...〕