白雪解けゆく

□第二章-夏風
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お前の笑顔が好きだった。

あいつが隣に居ることで、お前が笑っていられるのなら俺はそれでもよかったんだ。

その笑顔が好きだから、お前が綺麗に輝いていたから、俺は静かに見守ることを選んだぜ?



……だけど今は違う。

あいつはお前から笑顔を奪う。その存在がお前を悩ませ、そして悲しませる。





俺は――
















-丸井ブン太-















「……優里?」


学校の帰り道で立ち寄ったケーキショップを出た俺は、人ごみの中から見知った顔を見つけた。





「おい、優里!なにしてんだー?」


小走りで駆け寄り、彼女の肩を軽く叩く。



『――っ!』


びくり、と肩を大きく震わせた彼女は無言で俯いてしまう。

その様子を不思議に思った俺は、窺うようにそっと顔を覗き込んだ。




「お、まえ……



どうしたんだよ!」


覗き込んだ彼女の表情を見て俺は驚いた。



『……ブン、太』


だって彼女は涙をいっぱいに流し、必死に何かを堪えているような顔をしていたから。




『ダメ、なの』

「ダメ……?」


俯く彼女はぽつり、と呟いた。



『気持ちがね、消えてくれない。赤也に好きだって言われて……嬉しい、なんて思っちゃうの』


悲しそうに笑う彼女の言葉を俺は何も言わずに聞く。



『ダメなのに。もう赤也の隣には居られないのに、さよならをしたはずなのに。

私の気持は赤也から離れられない。まだ好き、なの』

「……優里」


泣き笑う彼女の姿に俺の気持は締め付けられた。



俺の知ってる彼女は元気で、明るくて、いつでも笑っていて。

俺はそんな彼女の笑顔が大好きで、彼女が笑うと俺も自然と笑顔になれたんだ。


だけど、俺の目の前にいる彼女は泣いている。悲しそうに、辛そうに、苦しそうに泣いている。

赤也のことで悩んで、俺の大好きな笑顔が涙で消されているんだ。










「――泣くな、よ」


あいつのことなんかを想って泣かないでほしい。



『ブン太……?』


俺だってお前のことが好きなんだ。



「泣かないで……くれよ」


ずっと、好きだった。

他の奴との幸せを願ってあげられるくらいに、大切だと思えたんだ。

だから、そんな大切なお前があいつのことなんかで泣くなんてダメだ。


お前は笑っていないと。

幸せそうに笑うお前を見ていることが、俺にとっては一番の幸せだったんだから。



――優里が笑顔でいることが俺にとっては一番の喜びだったんだから、さ。










「……なあ、優里」


俺は彼女の手をぎゅ、っと握りしめると真っ直ぐにその瞳を見つめる。



『うん?』


緊張で震えだしそうになるのを誤魔化すかのようにそっと力を込めて、ゆっくりと口を開いた。



「俺の話……



聞いてくれる?」










俺の大好きな笑顔。

あいつが与えて、そして奪ったその笑顔。


あいつの存在がお前悩ませ、悲しませ、お前の全てを支配している。

その事実が苛立たしく、同時に悔しくもある。



それでも俺が望むことは――










やっぱりお前の笑顔なんだ。





〔To Be Continued...〕

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