白雪解けゆく
□第二章-夏風
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自分に嘘を吐いて、その気持ちを抑える付ける。
それはよくないこと。
だけど、それをすることでお前に笑顔が戻るなら、幸せになれるのならば……俺はそれでもいいんだ。
――時には犠牲も必要だ、とそういうこと。
白雪解けゆく
-丸井ブン太-
「だから……
お前は赤也と一緒にいるべきだ」
それを自分で言いながら胸の奥が痛くなった。
『なに、言って……』
俺の言葉に動揺しているのか、彼女の瞳は揺らいでいる。
「これは俺の我が儘だけどさ。でも、優里は難しく考えすぎなんだよ」
そう、これは俺の我が儘。
彼女だけには幸せでいてほしい、なんてそう思っている俺の我が儘なんだ。
『そんなことっ』
「俺がそう言ってんだから、そうなんだって!」
否定する彼女に俺は笑ってみせる。
「優里はさ、思い詰めすぎてるみたいだけど。赤也と一緒に居たらダメだなんて、誰が決めたんだよ。
自分の気持に嘘吐いて、あいつの言葉から耳を塞いで……そんなことしてたって誰も幸せになんかなれねーだろぃ?」
俺なんかが言える言葉じゃないけれど、今ここで俺が言わなければ彼女は一生、前に進めないだろう。
彼女だけではなく、赤也も――
そして俺も。
「俺は優里のことが好きだから。友達として……大切だから、お前には幸せであってほしいんだよ」
泣いてしまいたくなる気持ちを必死に堪えて、彼女へと笑顔を向けた。
嘘なんて言ってない。
俺は優里が好きで、友達としても大切で、だから幸せになってもらいたいと思っているから。
……ただ、その気持ちの中に友達以上の想いがあることは言えなくて。
そのことがすごく、悲しかった。
『ブン太っ』
「お、おい!泣くなって。俺はお前の笑顔が好きなんだ、って言ったばっかだろぃ」
突然、泣き出した彼女に俺は少し戸惑いながらも、優しくその頭を撫でてやる。
『う、ん』
そう頷いた彼女は涙を拭い「ブン太」と、俺の名を口にした。
そして真っ直ぐに俺を見つめる。
『ちゃんと話すよ。私……赤也に話すから。
病気のことも、自分の気持も、全部話して謝るの』
俺を見つめる彼女の瞳の中に、もう悲しみは見えない。
『ブン太がね、私に教えてくれたの。ブン太が話してくれたから私はこんな風に思うことが出来たんだよ?』
彼女の言葉に俺の心の中では嬉しさとか、悲しさとか、悔しさとか。様々な感情が混ざり合って複雑な気持ちになった。
『本当にありがとう。
――私もブン太の笑顔、大好きだよ』
晴れたような笑顔。
それは俺の好きな……俺が好きになったものだった。
――悔しいけれど、彼女はあいつと元の関係に戻るだろう。
それでも、もういいんだ。
俺の気持ちが届かなくても、思いが通じ合わなくても、優里が笑ってくれるならそれでいいよ。
だって彼女は最後に「大好きだよ」と、そう言ってくれた。
俺の為だけに笑顔を向け、望んでいた言葉を与えてくれたんだ。
例えそれが俺が持つものとは違っていても、その言葉が聞けただけで十分だろ?
「――優里!頑張れよなっ」
俺は彼女が大好きだと言ってくれた笑顔を向けてそう言った。
お前を好きになって良かったって、俺は思う。
ただ見ているだけの……そんな恋だったけれど、最後にお前から貰った。
何よりも嬉しい言葉を貰えたから。
だから俺はそれだけで満足だ。満足しなきゃいけない。
これ以上を求めたらいけないから、笑顔で終わらせたんだ。
ありがとう
さようなら
そして――
頑張れ。
〔To Be Continued...〕