白雪解けゆく

□第二章-夏風
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自分勝手な俺は、彼女の気持なんて少しも考えていなかったんだと思う。

彼女と一緒に過ごしている間も俺は別の相手のことを考え、そして想っていた。


彼女はそんな俺に気付いていたはずなのに、ずっと傍に居たんだ。

そして一人で傷ついていたのだろう。



何一つとして与えてやることが出来なかった俺が唯一、出来ること。

それは――





ただ、ただ謝ること。
















-切原赤也-















「その、さ。……さっきは悪かった」

「謝んなくてもいいよ。舞華、気にしてないし!」


俺の目の前に居る彼女は笑顔でそう答えた。

その笑顔がとても辛そうで、俺は彼女に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


気にしていない訳がない。俺は彼女に酷いことをしたんだ。

優里先輩のことしか見えなくて、彼女の手を振り払い置き去りにした。





「……舞華」


そんな俺はこれから再び彼女を傷つけることになる。



「うん、なに?」

「俺はもう……舞華と一緒には居られない。勝手なこと言って、ごめん!」


そう言って俺は頭を下げた。










「それは――」


しばらくの間、何も言わず黙っていた彼女がゆっくり口を開く。



「それは舞華のことを捨てて、あの人と元に戻るってこと?」


はっきり、とした口調でそれを問い掛けた彼女。

俺は下げていた頭を上げて彼女へと視線を移す。



「戻る、かどうかは分からない。無理かもしれない。

でも、俺はもう舞華と付き合ってはいけない。これ以上……俺の自分勝手な考えにお前を振り回したくはないから」


戻るかなんて分からない。戻れないかもしれない。

俺がそれを望んだところで、優里先輩は違うかもしれないから。


だけど、だからって舞華と一緒に居ることは無理だ。

俺は舞華のことを一番には考えてやれない。彼女と同じ分だけのものを返してやることは出来なくて。

結果的には傷つけるだけになってしまう。


だからもうこれ以上、俺の気持に彼女を振り回したくはないんだ。

こんな自分勝手な俺からは離れた方が彼女の為になる。










「……赤也はズルいね」


そう言った彼女の顔はどこか悲しげだった。



「ごめんっ……本当にごめん、な」


そんな彼女に俺は何をしてあげることも出来なくて。

ただ、謝るしかなかった。



「もういいってば。

だって、謝らなきゃいけないのは舞華の方なんだから」


遠くを見つめながらそう口にした彼女は更に続ける。



「舞華ね、知ってるの」

「知ってるって何をだよ?」


言葉の意味が分からず首を傾げる俺に彼女は「……赤也の願いは叶うってこと、かな」と、小さく笑いながらそう言った。





「どうかした?」


驚いた様子をみせる俺に今度は彼女が首を傾げる。



「いや……そんな顔も出来るんだな、って思ってさ。

いつもそうやって笑ってれば可愛いんじゃねーかなって」


彼女があんな風に笑ったことは今までなかった。

だから少し驚いたけれど、それと同時にいい笑顔だ、って思ったんだ。





「な、なにそれー?舞華はいつだって可愛いんだからね!」


そっぽを向きながらそう返した彼女に俺は「そうだな」と、笑った。

すると彼女も「そうだよ」なんて言い返して、俺に背を向ける。





「……それじゃあ、もう話は終わりだね」


俺に背を向けたまま呟くよ言うに発した彼女の声が少しだけ震えていたように感じたのは、きっと気のせいなんかではないのだろう。



彼女との付き合いはすごく短い時間だったけれど、それでも分かることはある。


彼女は自分の気持に素直で、正直で。

いつだって思ったままに行動しているように見えるけれど、本当は違う。

一番大切な部分ではどこか我慢していて、意地を張っていて、誰にも見せない……そんな子なんだ、って。










「ねえ、赤也?」


真っ暗な夜空を静かに見上げた彼女。

何かを決意したかのようなその後姿を、俺は何も言わずに見守った。



「優里先輩ね――



泣いてたの。ごめんね、って言いながら」


彼女の言葉に驚いた俺は「どうして……?」と、思わず口にする。

すると彼女は少し呆れたようにため息を吐いて、軽く俺を睨み付けた。



「それを舞華に聞くんだ?答えなんて簡単でしょ。自分で考えなきゃ」


それだけ言うと彼女は歩き出す。



優里先輩が泣いてた理由は分からない。……分からないけれど、俺は期待してもいいのだろうか?

彼女も本当は別れたくなかったから泣いていた。別れなきゃならない何かがあった、って。





そこまで考え、俺は慌てて舞華を呼び止める。



「――舞華!」


振り返らずに立ち止まった彼女。

俺は精一杯の気持を込めて、彼女に送る。



「ありがとう。教えてくれて……ありがとう、な」


舞華は優里先輩のことを態々、教えてくれた。

黙っていてもよかったのに、だ。


自分勝手な俺を責めもせず、まるで俺の背中を押すかのように。



そんな彼女のおかげで俺はもう一度、優里先輩と向き合える。

本当の気持を聞こう、とそう思えたんだ。










ありがとう。

こんな俺と付き合ってくれて。

こんな俺に付き合ってくれて。


ごめん。

お前を傷つけてばかりで

お前のことを考えてあげられなくて。



最後にお前が残した言葉。

話さなくてもよかったのに、お前は話してくれたんだ。


俺はお前に何一つ、してやれなかった。

……いや、違う。しようとしなかったんだ。


ごめん。本当にごめんな。



でもお前と過ごした毎日は結構、楽しかったりしたんだ。

これは嘘じゃないから。


今までありがとう。

こんな俺を好きでいてくれて――





ありがとう。





〔To Be Continued...〕

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