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□両手に華
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両手に華


「ジグさん早く!」


はしゃぐレンの数歩後ろを歩く
サルバトーレ離宮の門を潜ると、いつ見ても圧倒される建物が見えた


「あの…すいません」


俺の隣を歩くアイリスが本当にすまなそうな顔をしていた


「付き合わせてしまって…」
「別にいい」


レンの提案でこのサルバトーレ離宮を一般公開することになった
レンはバザルタ本部に住んでいるし、必要がなくなったからと言っていた
今日はその為の下見
イビノスの残党が居ないか
ゼブリラがおかしな仕掛けをしていないかを調べることが目的だ


「イビノスが残っていたらレンとお前だけじゃぁつらいだろ」
「…はい」


困ったようなアイリス
アイリスは治療専門だ
レンが居れば大丈夫だとは思う
が、念の為に付いてこいとレンに引きずり出されたのが今朝の出来事


「レンは楽しそうだな」
「ジグさんに自慢したいのだと思います」


確かに立派な建物ではあるな
本来はレンの城だった建物
レンがはしゃぐのも無理もない


「ジグさん、私が案内します」


いつの間にか俺の傍まできていたレン


「私しか知らない隠し部屋とかあるんですよ」


腕を掴まれ連れて行かれる


「あそこの本棚ですけど、後ろに隠し通路があって外に通じています。そしてあそこは…」


子供のように目を輝かせるレン
俺の腕にレンの腕を絡ませながら指差し説明していく
構造は興味深く面白い
ふとアイリスが気になって振り返る


「?」


俺はてっきりいつものように困ったような笑みを浮かべていると思った
だが、アイリスは不機嫌そうだった
一人にしてしまっていることは悪いと思っている
しかしアイリスがこんな表情をすることは意外だ


「アイリ…」
「ジグさん」


アイリスを呼ぼうとした俺の声はレンによって遮られた
上目遣いで見上げてくるレン
頬を膨らましそうな程不満そうな顔


「次はあっちです」


だがすぐに笑顔になる
見間違いだと思うくらいに


「行きま…」
「っ!」


軽い衝撃
レンが掴んでいる腕と逆の腕に温もり


「アイリス?」
「す…すいません。けど!」


上げたアイリスの顔は赤い
それでも必死に言葉を紡ごうとしている


「けどっ、レン様ばかりずるい…で…す」


泣きそうな顔
俺は苦笑に似た笑みを零した


「…行くか」


両腕を塞がれたまま歩き出す


「…ジグさんが歩きにくいですよ。アイリス、離れてください」
「嫌です」
「アイリス!」
「レン」
「…ジグさんが言うなら」


渋々ながら大人しくなったレン
宮殿の中を歩く
両手に少しばかり扱い難い華を携えて

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