Long novel


□Case2,大富豪の秘密(前)
1ページ/1ページ

「あっはっはっ。わしの財力を注ぎ込んだこの最強の警備を持ってすれば、怪盗一匹ごとき直ぐに捕まえられるわ!」


ある大富豪の別荘。
今ここでは、ちょっとした騒ぎが起こっていた。



『今宵は鮮血の侯爵夫人の姿にて、その財宝、頂戴致します』



そう、届いたのだ、予告状が。



Case2,大富豪の秘密(前)



予告状が届いたのは2日前。
そして予定日は今日の23時59分。
大富豪は大量の金を持ってして、たったの2日で大掛かりな警備システムを完成させたのだった。

しかしこれだけの事をしておきながら、屋敷の回りには警察がいない。
何故って…

「警備に警察ぅ!?そっ、そんなものはいらんわ!わし自慢のこのシステムさえあれば問題ない!!」

という訳だ。
しかし、これで引き下がる警察で無いのもまた事実。
屋敷の回りには、秘密裏に警備員が配置されている。
勿論、屋敷の内部にも…










「そろそろ、時間ですわね」

金髪金眼は笑う。

今宵はワインレッドのドレスに身を包んで。
『鮮血の侯爵夫人』の姿となって。

金髪金眼は笑う。

「その財宝、頂戴致しますわ」










「出たぞー!『鮮血の侯爵夫人』だ!!」

屋敷の外にいた警備の1人が大声を上げた。
その声を皮切りに、屋敷やその回りの空気が一変する。
息を潜めて、眼光を強めて。
それは勿論、密かに潜んでいた警察も同じ事。
お陰で、屋敷の周りの空気がピリピリピリ。

そんな空気の中、1人異質なものが入り込む。
屋敷の正面、門の前。
一番警備の厳しい所。

「今宵もまた…五月蝿い虫の多いこと」

1人の、女。
ワインレッドのドレスを纏った。



カッカッカッ



時間が停止したかのようだった。
誰一人、動く事が出来ない。
女を除いて。



カッカッカッ



女は歩く。
正門を、堂々と跨いだ。

「……ッ!きっ、貴様!!止まれ、止まれぇっ!!」

一人の警備員が、ハッと我に返った。
その声で周りの警備員も目を覚ます。

「…あら、やっとお気付きになったのですか」

人を見下したような女の声。

「どっ、どこだ!?」

その声は、しかし意外な所から聞こえた。
正門の先、広い庭の更に先、屋敷の玄関、から。

「あなた方が仕事を疎かにしている間に、私玄関まで到着してしまいましたよ?」

ふふふ、と女は妖艶に笑って。
…玄関の扉を蹴破った。



ドガァァン…!



「何事だ!?」
「鮮血の侯爵夫人が屋敷に侵入したぞ!」
「取り押さえろ!」

一気に辺りが騒然とする。
女の得体の知れない空気に一瞬圧されるも、こちらの警備員は直ぐに女を取り押さえに掛かった。
手には……物騒にも、拳銃やら槍やら剣やら。
警棒なんて生易しいものを持っている警備員は一人もいない。
それは、今までの『鮮血の侯爵夫人』の所業を知っている故の行動だった。
しかし。

「まぁ皆様、レディにそんな無粋な物を向けてよろしいと思っていらっしゃるの?」

女は、この状況でも全く微動だにしない。
むしろこの状況を楽しんでいるようにも見えた。

「そんな事を言っていられるのも今のうちだけだぞ。…かかれー!」
「はぁ…。だからあなた方は五月蝿い虫だ、と申しましたのに」

一人の警備員の合図と共に、一斉に各々の武器を構える。
ある者は拳銃の撃鉄を起こし、またある者は槍や剣を構えて。

それとほぼ同じタイミングで女も動く。



タァァン―!



次の瞬間、全ては終結していた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ