小説

□魔女のこうさつ
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※P.1―292文字


手が食い込んでしまうかしら。顎に手を添えて、考える。その動作に何も意味は無いけれど、ちょっとは“考えている風に”みえるかしらと思って。ただの気分なのだけど。あぁ、手袋をしたらいいだけよ。わたしは浮かんだ考えにぱっと笑い、頷いた。仄暗い部屋に、こつこつと足音が響く。何時にしようかしら。この前は夜だったから、今度は朝にしようかしら。どきどきは止まらない。また悩みながら、目線を下に落とす。灯の無い室内に、わたしの黒い目がひどく不気味に、ぎょろりと動くのが姿見にぼんやりと映った。すんすんと鼻を啜って、にやりと笑う。鉄臭いような、どこか嫌悪を感じさせる臭い。だけど、わたしのある衝動を掻き立てるには充分。黒い革のブーツに何かがこつりと当たった。目の前にあるそれに手を伸ばし、引いた。わたしが引いた細い紐の先で、ごとりと音がした。あぁ、忘れてた。紐を手繰り寄せ、そこに結び付く頭を掴んだ。結び目を解くと、その首に露になる紐の跡を撫でた。今度は上手くするわ。ちょっと苦しんじゃったから、このひと。くすりと笑って、まぁいいわと言った。釜にでもぶち込んで有効利用してあげるから。長い爪で冷たく青白い肌を掻いた。力をいれようとして、血と肉が爪にこびりついちゃうと思って、止めた。それは、また今度にしよう。今は、もっと細い紐をさがそう。この感覚だけはどうしても、魔法じゃあだめなのよ。






End
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