どうしてこうなった。

□二度ある事は
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今日は、朝から雨だった。



夕刻を過ぎて夜になった今でも続く雨は、強くも弱くもなく、一貫してサアサアと綺麗な音を立てて降り続けていた。
梅雨に入った今の時期では雨なんて珍しくもないのだが、どこか優しげな音を奏でるこの雨は、何だか懐かしい気がする。
降る雨粒を目で追いながら、彼女―――**は、感じた懐かしさを不思議に思っていた。
何でだろうと考えると、気になってしまうもので。
いつしか、それまで順調に書類を作成していた彼女の手は止まり、手元を離れた視線は窓の外へ向けられ、思考は記憶の海へと潜っていた。

どれくらい、そうしていたのか。

用事を済ませた勘右衛門が戻って来た時、記憶を辿って深く考え込んでいた**は、彼が部屋に入って来た事にさえ、気付いていなかった。
勘右衛門が名前を呼ぶと、ビクリと大きく肩を震わせて、驚いた顔で彼を見た。



「か、勘ちゃん…?」
「ただいま、**ちゃん」
「おかえりなさい……帰ってたの?」
「ついさっきね。
 珍しいね、**ちゃんがぼんやりしてるなんて」



どうかした?

軽いノリで聞いてきた相方に、**は再び窓の外を見遣った。
雨は、まだ変わらぬ音を立てながら降り続いている。



「雨…懐かしいなって、思って…」
「懐かしい?」
「うん、懐かしい」



サアサアと降るこの雨が、何だか懐かしくて心地良かったから。
どうして懐かしいのか考えていたのだと、彼女は告げた。
目を細めて微笑む彼女に、彼もつられて微笑む。



「……ねぇ、勘ちゃん」
「うん?」
「覚えてるかな…?」
「…何を?」
「【昔】ね、こんな雨の日に…
 委員会室で二人でお饅頭を食べてたら、庄ちゃんと彦ちゃんが来て『二人だけでずるいですよ』って…」



言いながら、クスクスと笑い出す**。
彼女がどの思い出の事を言っているのかが判った勘右衛門は、後に続く記憶に、そんな事もあったなと笑って彼女の言葉を継いだ。



「他にお菓子がなくて、二人の為にボーロ作ったよね。
 それで、食堂に来た三郎達に『俺達の分は無いのか』って言われてさ、二人じゃみんなの分作れなくて、結局みんなで作る事になっちゃって」
「あの時、碧さんが初めてパンを作るに成功したのよ。次屋君達とすごく喜んでたわ」
「体育委員はピザとかポテチとか、作ろうって躍起になってたからなぁ」





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