どうしてこうなった。

□二度ある事は
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脳裏に蘇る当時の光景に、懐かしくなる。
確かにあの日も、こんな雨が一日中続く日だった。


それに、あの日も。




「【村】でも、同じ事してたわよね」
「してた、してた!
 お土産の団子が少ししかなくって、俺達だけで食べてるの、ハチのとこのチビに見付かって!」
「あの後も、結局、みんなでお菓子作って食べたのよね」
「あれ、凄かったよな。クッキーとかプリンとか。あの時代によく作れたよね」
「みんなで試行錯誤して頑張ったもの」



あの時代に、現代のお菓子や料理を再現するのは大変だった。
当時は無かった道具の代用品や作り方等を、ひとつひとつみんなでクリアしていって、ようやく完成した物ばかりだった。

みんなで意見を出し合って試行錯誤した事。
上手く出来上がって、手を取り合って喜んだ事。
食べた時に村中に広がった、みんなの笑顔と歓声。
それらを思い出せば、二人の顔に自然と笑みが浮かぶ。
懐かしい、記憶だ。

この雨に懐かしさを感じる理由を知って。
理由である記憶を共有する相手と共に笑いあう―――そんな今が、何だか嬉しかった。
ほっこりした気持ちで視線を落とした**は、目にした物に動きを止めた。



「あ…」



書類、だ。
作成途中の。

瞬時に自身が仕事中だった事を思い出した彼女は、慌てて手中のペンを握り直した。
途端、書類が目の前から消えた……いや、取り上げられた。勘右衛門に。
紙を追った流れのまま勘右衛門を見上げた**に、彼がにこりと笑いかけた。



「この雰囲気で仕事に戻るのは良くないよ?**ちゃん」
「勘ちゃん、でも…」
「〆切りまで一週間はあるんでしょ、これ。
 急ぎじゃないんなら、放っといていいんだよ、こんなの。」



ぽい、と机の端へ投げ出された書類。
思わず目で追うけれど、それを咎めるように勘右衛門の手が**の頬を包む。



「**ちゃんは頑張りすぎなんだよ。
 もっと力を抜いていいんだって、いつも言ってるだろ?」



優しく微笑む、彼。

その表情と言葉に、かつての記憶が被る。





『**ちゃん、頑張りすぎだって。
 少しは力抜きなよ』

『**ちゃんは頑張りすぎなんだよね。
 力抜いてもいいんだよ?』









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