長編

□02
1ページ/1ページ





ガチャ…


ドアを開けると女の子がこっちに背を向けて空を見とった


「…手紙書いたんは君ですか?」


ゆっくりと振り返ったその子は話したことも無いし、名前も知らん子やった
バッチを見ると二年生っちゅう事だけは分かった


『来て下さったんですね』


「おん」


夕日をバックにたたずむその姿は正直見いってまうほどキレイや


『ここに呼んだ理由は聞かなくても分かると思います』


「……おん」


それでも返事、言わなあかん…


「ごめん。今はテニス一筋やから…ホンマごめん」


いつもこう返す。


そしていつも相手は泣き崩れる


そして…いつも泣いとる女の子の横を素通りしていく俺


正直ツラい。




でも俺の目の前にいる子は違かった


『そうですか…そうですよね』


満足そうにフフッと笑うその子。俺は初めての事に驚いた


「ツラく…ないん?」



思わず尋ねてしまった


少女は笑顔のまま答えた


『ん〜辛いですよ?本当に白石さんの事好きですから。私、初めてこんなに人を好きになりました』


チクリ。


その発言を聞いて胸が痛んだ



そのあどけなく笑う少女の期待に答えられない自分が嫌になった



「……ごめん」


少女は一瞬悲しい顔をしたがまた笑顔になる



『謝らないでください。
最期に白石さんに気持ちを伝えられて良かったですから。』



「最期…?」





ざわっ




何だ?今、妙な感覚になった




『私ね…もう長くないんですよ』



それを聞いて疑問が確信に変わった。




『病気なんです。病院に行ったらもうダメなんですって。手の施しようがないって言われちゃって』


あははっと笑う笑顔が痛々しい


「…なら、なんで無理に笑おうとするん?」



その子はビックリして一瞬目を見開いたが直ぐに目を細めて微笑む



『運命…なんだと思います』



「運命…?」



『はい。私の体が病気に負けたのも何かの運命。
ここで白石さんに振られるのも運命。』



チクリ



また胸が痛んだ




『そして…私が死ぬのも運命なんです。』


寂しそうにポツリと呟く



『笑ってなきゃ…ツラいんです。負けそうな時や挫けそうな時は笑えば少しは楽になるんですよ』


また微笑む



『ごめんなさい変な話しちゃって…
今日、話した事は全部忘れて下さい。私の事も…忘れて…』


俺の横を通り過ぎてドアに手をかける。
そしてこちらに背を向けたまま呟いた



『……さようなら。』




ガチャ



…っ!!




「そんなこと……そんなことあらへん!」




ドアを閉めようとした少女の手が止まる




「君は…俺が絶対に死なせへんから!!」



自分でも何故こんなに熱くなるのか分からなかった



そんな疑問を抱えつつも、少女の元へ歩み寄って掴んで振り向かせる




さっきまで笑顔やった顔は涙で濡れとった



『…っ!見ないでくださ―』




ギュッ



少女を抱き締めて頭を撫でる



「なぁ…ホンマはツラいんやろ?
痛くて怖くて苦しくて悲しくて…」








「…もっと生きたくて。」




俺の胸に顔を埋めて声を殺して震えるその子



「泣く場所が無いならいつでも俺の胸貸したる。
おもいっきり泣けばええ。」



ギュッとその小さくて華奢な体を抱き締める



この小さな背中で全て抱えこんどったんやろうな…




「もう…我慢なんて…せんでええから」



胸のなかで声上げて泣く彼女






俺は何故か名前すら知らないこの子を







守ってやりたいと思った。




Next.03



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ