長編

□03
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「落ち着いたか?」


二人で公園のベンチに腰掛ける。ここまでに来るのにお互いずっと無言やったから10分ぶりの会話になる。正直むっちゃ気まずかったけど俺が公園に行こうって提案したから後には引けんかった。


彼女から色々と話を聞きたかったしな



『はい…ありがとうございます』


「そか、えーっと……」


『名字名前です。』


「ほな名字さんやな」


『あ、名前で良いですよ。皆そう呼んでますし』


「あ、そうなんか。じゃあ…名前」


はい、とニッコリ笑う笑顔を見て俺は名前の事何にも知らん事を痛感した。



「あ、せやったら俺の事もさん付けなんて他人行儀な呼び方せんでもエエんやで?」


『あ、いえ私達付き合っても無いですから、白石さんにそんな軽々しいこと出来ません…』



もっとフランクに行こうと思って言ったのに、名前のその言葉を聞いて思い出した。ついさっき俺はこの子を振ったんや



「…………」


『…………』

会話がしずらくなってしまった。何か話さなければ、と思うほど何も出てこない



それとも、このまま帰ってしまおうか…自分から言い出して悪いのだが正直これ以上名前とおっても何かを聞き出す以前にまともに会話する自信がなくなった。


ここで別れたら良くも悪くも今後一切会うことも無く、元の生活に戻るんや。彼女も忘れて下さい、って言っとったし…それでええんやないか?


そんなことを考えていると名前が口を開いた


『こうしていると……日頃聴こえない音が聴こえてくると思いません?』


「え…あ、そおか?」


名前は何を思ったのか目を閉じたまま語りかけてきた。気まずさを打破するための彼女なりの気づかいなのか何なのかは知らんがとりあえず今は名前と同じように目をつぶってみる




…あれ?ホンマや…




日頃は気にしない様な風の音や肌に当たる光の感覚、遊びから帰る子どもの声や遠くからする車の音。

今は全てが新鮮に感じる

こんな感覚、こんな新鮮さ、テニスに夢中になっとった…楽しゅうて仕方がなかったあの時ぶりや。


何で今、そんな感覚に陥るのかが分からなかった。俺はこの場から去りとうて仕方がないんやないのか?


自分でも分からん。考えれば考えるほど答えが見つからん



『あっ、蝶々』



ふとした名前の声で顔をあげたら蝶が俺等の周りをヒラヒラ飛んどった。夕日に照らされて白だかオレンジだか分からんようになっとるけど本当は純白の蝶やと思う。
そいつは名前が指をのばすと止まろうと寄って来た。


「ははっ、なんやこいつ人懐っこいなぁ」


『そうですね、なんか可愛いですね』


無邪気に笑う名前の横顔を見て俺はこのまま時間が止まればいいとさえ思った。


「――くすっ…ホンマかわええな。」


ですよねーと笑う天然な名前を見て柄にもなくつい微笑んでまう。何やこう言うのを幸せっていうんやろな



ホンマ…名前が病気に侵されとるなんて嘘みたいや



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