長編

□END
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俺はオカンの横を通り、震える手でカーテンをめくった



名前が眠っとった。


スヤスヤと



「っ……はぁっ…俺の考えすぎやったか」



1人でははっと笑う



めっちゃ……安心したわ



それにしても病状…落ち着いたんやな



「ぐっすり眠っとる…」








ん……?





待てよ…







ぐっすり眠っとる?





スヤスヤ?




俺の回路が廻る







―ピクリとも…動いてへんやないか





これじゃまるで…








それに気づいた時、俺は奈落の底に居た





「あ…あぁ…あぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁっ」




そこに眠る少女は













もう、




ウゴカナイ。






「――うああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」




泣き崩れる



名前の前で



いや、名前の亡骸の前で





「名前っ名前っっ!!名前っ!!」



名前の顔が涙のせいで見えない




「なぁ…っ、起きて……くれよ…」





俺の姿を見かねた名前のオカンが優しい声で話しかける




「ねぇ、蔵ノ介君?名前から…手紙を預かってたの。ここに置いておくから、読むも読まないも君に任せるわ」








「名前のために泣いてくれてありがとう。私達は…涙も渇れちゃったから……」




ガチャリ



部屋を出ていった





俺はままならない足取りで机に手紙を取りに行く。何メートルもないその距離が、果てしなく遠く感じる



手紙を手に取ると表には震えた字で白石さんへ。と書いてあった



その字からは既に力が無いことが伺われる



……俺に…この手紙を読む資格があるんか…?




一瞬読むことを躊躇ったが…手紙を開けた





《白石さんへ》


この手紙を白石さんが読んでいるということは私はこの世には居ないでしょう。

なんて漫画みたいな事を言ってみたりね

でも、本当の事ですよね。


私は病気には勝てませんでした


すごくこの体を恨みたい気分です。



…でも、もしこの体が病気に侵されてなかったら私は一生白石さんに思いを打ち明けることが出来なかったと思います


その点では病気に感謝したいです


何だか複雑ですね。



だから私は願いました。



つぎ生まれ変わる時は、健康な体で産まれて来ますようにって。


大好きな人とおばあちゃんになっても一緒に居たいなって。



だから…ワガママを聞いてください。



次生まれ変わった時



もう一度…もう一度白石さんに告白をしますから


その時は白石さんの彼女にしてくださいね?


それと、お身体には気を付けてください


テニスをする白石さんの姿が大好きです。



最後になりますがこれだけは言わせてください



本当に短い時間でしたけど凄く楽しかったです



ありがとうございました。





白石さん、










大好きです。






―手紙はそこで終わった。紙が一部濡れた後でクシャクシャになっている所を見て名前は泣きながら書いたんだと分かった



「ぐ…っ…名前……名前…う…ぅ…」



俺は手紙を抱き締めてまた泣いた


声を殺してひっそりと。




「名前…っ」



名前のベットに歩み寄り涙を腕で強引に拭った





次、生まれ変わったら告白する、か…




名前…スマンが約束…守れそうにないわ





だって…次生まれ変わったら






俺からお前に告白するから。




せやから待っててや。





何年かかってでも






何百年かかってでも





会いに行くから






必ず迎えに行くから







待っててや。







約束や。












名前に口づけをする。




最初で最後のキスは




残酷なほどに冷たく、どこか温かかった。








「なぁ…名前?」






ずっと言い出せなかった一言










「ごめん。好きや。」








俺は今頃気がついた









俺、名前に





















恋しとった。









〜Dear〜



親愛なる君へ。






僕のこの声、君に届いてますか?










届いているのなら、どうか返事をください。





END





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