長編

□03
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サァァァ…

少し冷たいくらいの風が私の頬をなでる。屋上は静かで良い。気分転換にはもってこいだ。…まぁそれほど気分転換になったと言うわけではないのだけれど。今日は色々ありすぎて頭がついていかない。気が付いたらベッドの上で、自分が何なのかが解らなくて。知らない人達が色々言ってくるけど何も解らなくて…


『私って…誰なんだろう…』


両親の事は分かるんだ。そして私がその二人の子どもと言うこともなんとなく分かる。けれども…その成長過程が全く思い出せない。私はどうやって産まれてどうやって育ってきたのだろう?
目が覚めたら急に名字名前って言う人間が現れたような…不思議な感覚。私はこの世で独り。


ヒトリボッチ。



そう考えると急に視界が暗くなった。私は存在しない人間…


『――あ、』



ふと考えてみた。もし私がここから飛び降りたらどうなるだろう。いくら病院と言っても私がこの高さから落ちたらまず助からないだろう。即死だ

身を乗り出して下を見てみると冷たい風が私を誘うように吹き上げる



「やっぱりここにおったか」


『!!』


慌ててフェンスから離れる。そう言う反応をするという事はやはり自分の中でも罪悪感か何かがあるのだろう


『―あ、さっきの…』


その整った顔を見てさっきの人だとは分かった。関係ない話だが多分彼は学校では凄くモテるんだと思う。
でも…えっと…名前なんだったっけ…


「白石蔵ノ介、や」


『…白石さん』



私の意を汲み取ってくれたのか名乗ってくれた。

でも…さっきからその名前を聞くと何か変な感覚になる。この感覚は何だろう…?私が記憶を失う前…何があったんだろ


「お前…屋上好きやったもんな。風を感じれる、言うて」


そう笑いながら私の横に並んでフェンスにもたれかかる白石さん。その横顔には心なしか寂しさが残っている気がする


『白石さん…私…どんな人間だったんですか?』


「せやなぁ一言で言うと…騒がしかったな」


『え…私ってそんな感じだったんですか?』


何だか予想外だった。勝手な想像で私は大人しい人間だと思っていたからだ。何を根拠に、と言われると言葉に詰まってしまうのだけれど…


「せやでぇ。いっつも余計な事ばっかりしおってからに…。ヤンチャちゅうか見てて飽きんっちゅうか…」


苦笑いをする白石さんを見て、何だか急に顔が火照ってきた。自分の記憶に無いだけで本当はとんでもない事をやらかしてしまってるんじゃないかと思ったからだ



「でも…ごっつい他人思いで優しくて友達も多くて…ホンマ自慢の……自慢の……。」



急に言葉を止めた白石さんを見るとスーッと頬に一筋の涙が流れる。



「もう…会えへんのやな…」


『しらいし…さん…?』



今までなんとなく見るとこができなかった白石さんの顔から目が離せない。何故だろう。何だか私もすごく泣きたい気分だ



「さ、ここは冷えるわ!早よ部屋に戻ろか?」


『え…あ、はい!』



何かをはぐらかすような白石さんの背中を慌てて追いかける。


さっきの涙は一体なんだったんだろう…






私は…ホント何なんだろ…?



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