「た、かぎ……」
「……っ、わ!あ、え!っと……ちっ違うんだ!待って!ごめん!」
――期末テストの最終日。
放課後うち来いよなんて下心マンマンで恋人を誘った俺は、とんでもない失態をしでかしてしまった。
「高木……これ」
「うわっ!ちょ!ごめんそんな近付けないで…っ!ご、めん…」
俺はいつも中間テストや期末テストの間、願掛けとしてオナ禁をしている。
もうそれは中学の時からの習慣になっていて、テストが終わった開放感と数日間のオナニー禁止令によって溜まった欲望を自ら吐き出すという最上の快感が、自分の中のアイデンティティーみたいなもんだった。
「何……いつから」
「去年?か、な…?」
……と、そんなことは今全く関係がなく(繋がりがあるといえば俺は五日間のオナ禁を終えて今非常にムラムラしていることくらい)、よこたんムスッとした顔も可愛いなと勃起しそうになりながら、俺はハッと緩んだ頬を戻して視線を泳がせた。
「………。」
「怒った?つか引いた…よな…?」
俺の愛用するよこたん抱きまくら(非公認)を抱いた横田は、そこに写された顔とさほど差異のない顔に暗い影を落とした。
キタコレ展開 番外編
いつもなら!いつもならね!
ほぼ毎日愛用している横田の全身がプリントされたその抱きまくらは、部屋のクローゼットの奥の奥に隠してから家を出るんだよ!?当たり前だよね!
でも今日は、長かったオナ禁から解放される幸福感と、テストも終わることだし久しぶりに横田を誘ってしまおうかなんて完全に浮かれた気持ちが先立って……ベッドにそのままよこたん抱きまくらを置きっぱなしで学校に行ってしまったらしい。
つかこれ今日母親に絶対見られたよな……しかも抱きまくらに写ってんのはよくあるアニメの萌えイラストとかではなく生身の人間。しかも知り合い。さらに同性で、もっといえばちょいちょいうちにも遊びに来て家族公認の友達カテゴリーに居るであろう横田。……最悪だ。つかまずい。
色々なことが頭を過ぎり事態の重さに気付いた俺は、さっきから口数がめっきり減ってしまった恋人をおそるおそる見上げた。
「よ…こたくん……?」
横田は何も言わず、俺の言葉が聞こえていないのかそれともこんな気持ちの悪い人間の言葉は耳に入らないとでも言いたいのか…涼しい顔にどことなく嫌悪感を混ぜながら、まじまじとその抱きまくらを観察していた。
やばい。やばい。やばい。
普通引くよな?引くよな?
だってこれ、例え好きな人相手だとしても普通に考えて、もし横田が俺の知らないところで俺の全身の写真がプリントされた抱きまくら作ってたってなったら……やばい興奮する。
「横田、もしかして興奮してる…?」
「…………は…?」
「すんません!」
ガッと床にめり込む勢いで頭を下げる。
横田はかなりご立腹のようだ。当たり前か。