なんだろう……思い当たる節はいっぱいあるけど……横田の隠し撮り写真がバレたとか、その写真を無断加工してコラッたりしてるのがバレたとか、しかもそれで横田くん抱きまくらを作ったことがバレたとか、横田がうちに来た日は横田が使ったコップとか洗わずに舐め回してたことがバレたとか……いやいやでもその流れだとチューすらしてくれんだろう、いやむしろ選別的な……
「俺のこと、気持ち悪くなった、とか?」
「えっ」
この質問に驚くってことは違うみたいだ。
安堵したと同時に、もっともっと考えたくない理由が頭に浮かんでしまった。
付き合っているのにここ三ヶ月ろくに恋人らしいことをしなかったのは、やっぱりその……俺が男で、言わずもがな横田も男で、同性相手に好きとかちちくりあうみたいなことがよくよく考えたらおかしいとか、冷静になって俺のことなんか別に好きとかではなかったとか、ほかに好きな奴ができたとか、そんな類いの話しか……
「たっ、高木、泣くなよ」
「へ……?」
気付くと俺の頬にはツー…と何か冷たいものが垂れていて、心配そうな顔をした横田がこっちを向いていた。
あれ、俺泣いてる…?
自覚した途端に堰を切ったかのように涙腺が崩壊した。
視界が涙で溢れて前が見えない。
大好きな横田の顔が、見えない。
「あ"…わ、もう…ごめ"…」
汚い声で謝りながら目をゴシゴシ擦る。
あーもうまずい。さっきのキスも、今の横田との関係も、何もかも全て終わってしまうなんて……堪えられない。死にそう。
「………っ。高木、」
きっと何て声をかければいいのか分かんないんだろう。横田は暫く間を置いてから、ゆっくり俺の名を呼んだ。
返事をする代わりにぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
――次の瞬間、俺は横田の腕の中にいた。
「わ"、よごだ…ッ、う"……」
あまりにあたたかい横田の温もり。背中に回された手は震えていて、精一杯俺を励まそうとしてくれてんのが分かって余計に泣けてくる。
「ごめ"……っ」
「何でそんな泣くんだよ」
横田は俺の背中をさすりながら聞いてくる。
ああもう、この優しさが余計に辛い。
「だっ…だっで……、よっ…横田ともう…こんな…別れる"……とか……っ」
とてつもなく格好悪く、縋るように横田の服を掴みながら吐露する。
あぁもうこんなん俺、嫌われて当然だ。
「横田……好ぎ…だ……」
「ん、俺も」
「………え…?」
「…?」
ん…?
横田くん、俺のこと好きなの…?
訳が判らなくなり完全に混乱した俺は、横田から離れてもう一度目を擦りクリアになった視界で再度横田をじっと見た。
「えっと、横田くん……俺のこと振ろうとしてたんじゃ…?」
「え、なんで」
「だってほら、その、俺関係で何か嫌なことっつか後ろめたいこと?あるってさっき……」
「あぁ、……うん」
言われて思い出しましたみたいな顔して横田は気まずそうに頷いた。
そんな抜けたとこも好きなんだけど、横田くんほんっと何考えてんのかわかんねぇ…!
「え〜…、なに。聞くから。言って」
部屋の壁に背中を預けて体育座りをする。
すぐそこにいる横田は、もじもじと手元を見ながら口を開いた。
「…だ…から……その、高木とあれから、…そういうことしてなくて、…えっ…と……高木は…嫌なのかなと思っ……て…」
途切れ途切れにそう話す横田を見ていたら、やっとさっきのいきさつが見えてきた。
要するにあれだろ、横田も俺と同じ気持ちだった、ってこと…でいいんだよな…?
さっきまでの胸が閊えるような重い気持ちがスッと消えていく。
よかった。俺、よこたんに嫌われてなかった。これからも横田の隣にいていいんだ。
あぁ、横田も俺と、同じ気持ちなんだ……
つか俺達、意思疎通出来てなさすぎだな。
言わなくちゃ、伝わるものも伝わらない。
「嫌なわけないだろ。むしろ俺の方が我慢してたっつの……ごめん」
「……え?と…」
「だから、俺だってその、お前と色々……シたい、です」
急に恥ずかしくなって手で顔を隠しながら言えば、横田くんの顔も微かながら赤くなってるのが見えて……二人してじわじわと俯いた。