そのままお互い無言の状況がかれこれ5分くらい続いた。簡単に5分っていうけどさ、こういう場面の5分って本当長くてマジでいたたまれない。
「横田……悪い。俺が悪い!全面的に俺が気持ち悪い!ほんっとごめん!なぁ、お願いだから何か言って?」
両手をガッチリと合わせ沈黙を破る。
横田はゆっくり自分が描かれている抱きまくらを傍らに置いて、それからまたスローモーションのような動作で、ひたすら頭を下げ続けている俺の目の前まで移動してきた。
「よ、こた…?」
「……目、つむって」
うおおおおまさかの横田くんから平手打ち宣言!!
俺は半分ご褒美なのかもという邪念を振り払い、静かに目を閉じてきたるべき衝撃に備えた。
――その数秒後。
俺の頬に来るはずの痛みはなく、その代わり俺の身体には横田の温もりがあった。
え、俺横田に抱きしめられてる…?
「よっ…よよよ」
動揺が隠しきれずまともに相手の名前すら呼べないヘタレな俺の肩に、横田の顎が躊躇なく乗ってきてビクリと肩を震わせた。
「よよよ…」
「本人より抱きまくらがいいの?」
「……」
静かなトーンで聞こえてきた言葉が予想していた罵詈雑言ではないことに気付き、「えっ」と短く反応する。
「だから……」
呆れたような、どこか投げやりにも聞こえる声色。横田の言葉を遮るようにして俺は声をあげた。
「もちろん本人がいいよ!当たり前じゃん!俺相当横田のこと好きだからね!そもそも横田本人にずーっと抱きつくのは無理だからアレ作ったんだ…し…」
横田の背中に回している腕にそっと力を込める。
「…去年から?」
「……はいすいません」
腕の中の少しだけ身丈の小さい恋人は、ふふ、と笑うような気配をみせた。
「…怒ってないの?」
「え、なんで」
おそるおそる聞けば、キョトンとした声が返ってきた。うわ、よこたん怒ってなかった…!
「なんでもない。横田、だいすき…っ」
ぎゅうううっと思い切り抱きしめて、溢れんばかりの愛を口に乗せる。
「…あ、でもやっぱ怒ってる」
「え」
おっとこりゃラブラブフラグかな〜なんてさっきまでの自分の立場を忘れて浮つきだしていたら、横田は拗ねたようにボソッとそう零しだす。ええぇ横田くんやっぱり怒ってたのかどうしよう。
横田は俺の肩につけていた顎をカクカクと動かし、地味に俺の劣情を煽った後こう続けた。
「……抱きつきたいなら、言えばいいのに」
一瞬言われた意味が理解できなくて固まる。が、すぐに最上級のデレをかまされたことに気付いた俺は、身をよじらせて擦り付くように強く横田の身体を抱きしめた。
「たったかっ」
「嬉しい…ありがとな横田…っ」
いっそ涙腺がやられそうなくらい感極まってしまった。
横田は俺が思っているよりも自分のことを好いてくれているんだなという実感と、よもやあの横田が自分の抱きまくらに嫉妬するなんて奇跡みたいな発見と……。こんなん感動するか興奮するかしか選択肢はないだろう。
しかも。
俺が全てを理解したことに気付いたのか、横田は急に狼狽えだして。
きっと恥ずかしいんだろうな〜と思うともう顔がニヤけるのを止められそうもない。
「横田、チューしたい」
「…ん」
耳元で囁くと、短い返事のあとにそっと身体を離して目を閉じる横田。可愛い。
もう何度したかわからないキスだけど、慣れるどころか毎回する度に緊張して、ドキドキする。
「…っん」
重なり合った唇は自然と互いを求めるように動いて、次第に舌を絡めて唾液を送り込むような激しくてエロイ行為になっていく。
「…ん…ん…っ」
「っ…」
横田の腰を優しく支えて、股間を擦り付けるように下半身を揺らしながら甘い口付けを続ける。
横田もそれに合わせて、まるで俺を誘うように身体を擦り付けてくる。この子ほんとエロい。
「…っ…、横田…」
「っ…う、だ、だめ」
「え…なんで」
「……こっち、」
快感に染まった瞳を合わせつつ、横田の手に引かれるままに自分のベッドへと移動する。
「横田…」
うちの家族が帰ってくるまであと二時間はあるな、なんて頭の端でしたたかに考えながら、そっと横田をベッドに押し倒した。
* * *
「で、横田くん…この抱きまくらの処遇はいかがいたしましょう…?」
「………。」
「横田、くん……?」
「……も…………る……」
「え?何?」
「……なんでもない」
「ちょ!なになに気になる!何て言った?!ねっ!ねっ!?」
「……高木のばか」
――俺も高木の作る、なんて。