罪なる愛に深く囚われてみたい

□黒水晶の棺
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ー魔界・ブェルブニ城・秘密の花園

幾年と時代が過ぎたが、ブェルブニ城の秘密の花園では時間が止まったままだった。
白い百合が咲き乱れる場所に似つかわしくない黒水晶で作った棺が佇んでいた。
静寂、悲しみ、慈しみが此処を包み込んでいる。

「ー…母様、もう苦しむ事は終わりにしましょう。お嬢様も戻って参りました。そして、清らかな魂も戻してきましたよ」

一人の男性が優しい笑みを溢しながら、黒水晶の棺で眠っている美しい男性に声を掛けた。

「僕、ハヅキ・エルレイ・プリゾは貴方を魔界へ歓迎致します。敬愛なる七大天使ウリエル…」

男性の穏やかな声音に反応したのか、咲き乱れていた白い百合の花が一斉に宙へ舞い上がった。

この時を、どれだけ待ち望んだだろう。
大切な存在が息をする瞬間を…。

ー…永かった。

とても、永い時間を費やしてきた。

「…目を醒ましたら、驚いて下さいね」

彼が永年と閉じていた眼を開くと広がる世界は、一番、驚く事だろう。
此処は、罪を犯した者が堕ちる場所。決して逃れるなど不可能な暗憺な世界だ。
そう、魔界とは、人々や愚かな神等が最終的に辿り着く所である。

「あぁ、もうっ!はいはい…」

いきなり、大声を荒らたげた男性は少し機嫌が悪い様子。

「折角、母様が目を醒ますまで居ようと思ったのに。まったく、使えない部下だ」

白い百合の花が舞う中、彼は地面を蹴り上げた。
本当は向かいたくないんだが、行かなかったら行かなかったで仕えている主に叱られてしまう。

「アルザリ様が目を醒ましたら、徹底的にストレス発散するんだからな。欲求不満が溜まって、狂いそうになるっ!」

ぶつぶつと独り言を吐き捨て、花弁に身を任せた。

ひらり、はらりと舞い落ちる花弁は、黒水晶の棺へ辿り着いた。

甘い、甘い、香りに包まれていく…。

苦い想い、辛い記憶すらも。

全て…すべてを。

溶かしていく。
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