しょうねんしょうじょものがたり

□少年は知らない、少女は知っている
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あたしは本を読むのが好き。
本の重み、紙の手触り、ページをめくる感触が好き。
知らないことを知れるし、いろいろな世界をのぞくことができるから好き。
でも一番の理由は、あなたと一緒にいられるからかな。




「邪魔するよ。」

そんな無愛想な言葉と共にうちに来たのはお隣に住むラウことアラウディ。
幼いときからずっと一緒だったし、彼の両親が仕事で家を空けることが多かったため、よくうちに泊まりに来たの。

物静かでいつも表情を崩さないと言われるラウは同じ年頃の男の子と野外で駆け回ったりはしなかった。
表情を崩さない、なんて彼を知らない人が言うことね。
彼だって嬉しそうな顔や不機嫌そうな顔、眠そうな顔だってするのに。
ただ他の人より変化に乏しいだけで、まったく変わらないってわけじゃない。

外で遊ばない彼がなにをして毎日を過ごすかというと、読書なの。
最初は絵本で、だんだん絵が減って文字が増えて、普通の本を読むようになった。

今日も本を小脇に抱えてる。

最初のころは本を読む彼を見ているだけだったけど、だんだん私も本に興味を抱き、彼の後ろから覗き込んだりした。
最近では彼が読書をしているときに私も読書をするようになった。

今読んでるのはおとぎ話。
実際には起きっこないお話ばかり。
でも現実には起きないからこそ想像力を刺激される。
絵空事だと分かっていてもあこがれる。

物語のハッピーエンドに頬を緩めていると怪訝そうな視線を感じた。


「なにニヤニヤしてるの。」

「素敵だなぁ、って思って。」

「何が?」

「物語の中ではね、お姫様には必ず王子様がいるの。
必ずそばにいてくれて、いつでも守ってくれるの。」

「そんな非現実的な話、リルは信じてるの?」

「ううん、そもそもあたしはお姫様じゃないもの。」


リルっていうのは、あたしの愛称。
使うのはラウだけなんだけどね。
でも私は気に入ってる。
可愛い感じだし、なにより彼にそう呼ばれるのが好きなの。
声変わり前の、高いわけじゃないけど低いわけでもない声が、彼しか使わない名前をつむぐ。
そうすると心がほんわかするの。

リルと呼ばれるたびに緩みかける頬。
近頃はそんな表情を隠そうと試みてる。
ラウに呆れられるのは嫌だし、彼みたいなポーカーフェイスを習得したいのも理由の一つ。


こんな感じでの会話以外を占めるのは静寂。
たまに小鳥の鳴き声が聞こえて、時折紙をめくる音がする。
決して気まずいことなんてなく、むしろ心地良い静けさ。

それを破るのはいつもお母さんの、ご飯できたわよ、という声。
それだって不快なものではない。
若干目を輝かせるラウと一緒にあたしも目をキラキラさせながらダイニングに行き、食事をする。
あたしのお母さんは料理上手だもん。
ラウだってそのことを顔で示すの、それってお墨付きよね。

お皿に残ったパンの欠片は庭に来る小鳥達にあげる。
ちっちゃくって、可愛い声で鳴くの。
たまに指に止まったりもして、見ていて飽きない。

好きなの、小鳥達も、お母さんも、読書も、そしてラウも。
あたしを取り巻くすべてのものが、私は好き、大好き。
大切で大切な、あたしの一部なの。
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