うぃっしゅ ふぉー しゃいん

□第二話
1ページ/6ページ

朝、目が覚める。
まず視界に入るのはピンク。
ピンクの正体はたくさんのフリルと布。
端的に言うと豪華な天蓋付のベッド。
掛け布団はこれまたフリルたっぷり。
それを蹴り飛ばすように体の上から押しのける。
すると現れるのはピンクのフリルの塊。
正確に言うと私の着ているネグリジェなんだけどね。
頭にくっついてるピンクの塊、もといナイトキャップを頭から引っぺがしてサイドテーブルに投げ捨てる。
そしてピンクのもこもこ、つまりスリッパに足を突っ込む。

ピンクとフリルが多いって?
そんなの私が言いたいわ!!
私の部屋は白とピンクで統一されていてかなり少女趣味。
言っとくけど私の趣味じゃないわよ?
全部テレカが用意したのよ。
服だってピンクとフリルしかないかもしれない。
ったく、胸焼けが治まらないわよ。
なんてことを考えてるうちにドアがノックされる。


「マリア様、失礼致します。」

『どぅぞ、入って。』


私が猫なで声で答えるとドアが開く。


「朝のお支度をさせていただきます。」

『えぇ、お願いねぇ。』


私の毎朝の日課。
それはウェーブしたブロンドのウィッグをつけること。
・・・カツラって言うな、ウィッグと言いなさい!

私はまず間違いなくテレカとクレアの子。
二人とも金髪で、二人の親族全員が金髪。
なのに私の髪はぬばたまの黒髪。
だから私は不義の子だって言うヤツがいるかもしれない。
で、そんな噂が流れることを恐れた二人は私に幼いころ、正確には私に髪が生え始めたころからウィッグをつけさせた。

毎朝私にウィッグを被せに来る使用人も極少数かつ、毎日同じ。
私が黒髪だということを知る人間は一人でも少なくしたいらしい。
さらに保険をかけないと気がすまないらしく、朝来る使用人達は皆、テンペスト家に借りがあったり、テレカに弱みを握られていたり、賄賂をもらっていたりするらしい。
最低だわ。
最低といえばウィッグだってそう。
この時代に人口毛なんてあるはずが無い。
つまり私が毎朝被ってるのは本物の人毛、誰かの頭からぶった切ってきたものだ、ということよ。
気持ち悪い。
しかも私は今、絶賛成長期。
頭の大きさだってどんどん変わる。
それにこの時代にウィッグのお手入れ道具、なんてたいしたものはない。
つまりウィッグは消耗品。
だから定期的に新しいウィッグに変えられる。
ちゃんと正当な手段で人毛を手に入れてるのかしら・・・。

・・・話がそれたわね。
ウィッグをつけ終えた使用人達は部屋から出て行く。


「ではマリア様、失礼致します。
テレカ様とクレア様はすでに食堂でお待ちですので、着替えたらすぐにお越しください。」

『えぇ。』


そんなやり取りのあと、戸が閉められる。
昔は着替えも使用人任せだったけど、今は一人でしてる。

あー、着替えたくないな。
理由はクローゼットの中を見てもらえば分かると思う。
ピンク。
フリル。
その二言のみで表せてしまう。
まあマリアとしての15年間で慣れてしまったわ。
できれば慣れたくなかった。
てか慣れなくてはいけない状況におちいりたくなかったわ。

適当にネグリジェを脱ぎ捨ててクローゼットの中から一着選ぶ。
まあどれも似たり寄ったりなんだけどね。

ウィッグがずれないよう気を付けながら着替えを済ます。
ウィッグを付けられた後に結われているから引っかかるのよね。
もう慣れてしまったけど。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ