うぃっしゅ ふぉー しゃいん

□第三話
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今日、テンペスト家では大規模なパーティーが開かれる。
それは今日が私の16才の誕生日だから。

今までにもいろんなパーティーに出席したことはあったし、テンペスト家主催のパーティーも参加したことはある。
でも自分が主役、ってパーティーは流石に今日が初めて。
緊張する、というよりもむしろ憂鬱だわ。
これまで以上に人前でかわいこぶりっ子してなきゃいけないなんて。
それにいつも以上に着飾らなくちゃいけないのもイヤ。

と言っても既にもうドレスアップ済み。
頭はいつも通りのブロンドのウィッグを結い上げて、これでもか、というぐらいの髪飾りがついてる。
重いし、ウィッグごとズリ落ちそうだわ。
ドレスは当たり前のごとくピンクで、フリルはいつもの五割増し。
ホントにもう、嫌気が差すってのよ。

…外が騒がしくなってきた。
いよいよパーティーが始まるってことね。
まずはテレカの挨拶。
本日はお越しいただき〜って感じのヤツよ。
テレカの後に私も挨拶をする。
そこで一応の義務は果たしたことになるけど、きっとその後はダンスのお誘いとかで抜けられない。
それに婚約話とかも挙がるだろう。
この時代でこの年ならあってもおかしくない。
まして、私はテンペスト家の一人娘なのだから。
親バカと私の性格さえ我慢すれば財力と権力が保証される、こんなお手軽な方法を見過ごす人も少ないだろう。


「マリア様、」

『はぁい、なぁに?』

「そろそろお時間でございます。
ご来訪の皆様がマリア様を待ちかねております。」

『わかったわぁ。』


私を呼びに来たメイドに猫なで声で返事をする。
どうやらテレカの挨拶は終わっていたらしい。
それで私の登場待ち。
全く、お客様を待たせるのではなく私を待機させればいいのに。
相手を待たせる方が威厳があるように見えるだなんて思ってるんだか。
そんな誤解をしてるから由緒正しい貴族のくせに成金にしか見えないのよ。
なあんて、言ってられないわね。

グッと目をつむる。

これから私が行くのはパーティーという名の戦場よ。
笑顔を盾に、言葉を剣に。
決して感情を顔に出さず、唇に弧を描く。
ロリ受けしそうな、妙に間延びした猫なで声で紡ぐのは、少し自己中ながらも少女らしい言葉。
味方なんて誰もいない。
言うならば、私と、この世のすべてとの戦い。
なんて、少し誇張し過ぎかしら?
でも私はそのくらいの心構えなの。

次に目を開けたとき、私はマリア・テンペスト。
今日16才になる、パーティーの主役。
テンペスト家の一人娘。
かわい子ぶりっ子で、いかにも世間知らずなご令嬢。

ギュッと手を握る。
その代わりに目を開く。

メイドによってドアが開かれる。
そこを通り、パーティー会場へと向かう。
そして顔には笑みを浮かべる。
頭ではご来賓の方々に向ける言葉を考える。
大分前から考えるように言われていたものの今の今まで放置してたから。
だって私は他にいろいろすることがあったし、そもそもスピーチ程度を考えるのにそう時間はかからない。

にしても騒がしい。
もうちょっと静かにできないの?
まあ主催者が主催者なら客も客ってことね。


「マリア様のおなりです!」

「マリア様ー!」

「ぅおおぉぉ!」


…すぐさま踵を返さなかった私を誉めてほしい。
誰だよ、雄叫びあげたやつ。
てかマリア様のおなり、って聖母が来たように聞こえるし。
もうすでにうんざりよ。

みたいなことはおくびにも出さず、皆の前に立ち、テレカからマイクを受けとる。


『今日はぁ、私のために集まってくれてぇ、ありがとう。
私はぁ今日で16才になるのよぉ。
どうぞパーティーを楽しんでねぇ。』


最後にニッコリ微笑んでおく。
この程度でいいでしょ。
誰も私のスピーチに感動なんて求めてないし。
それにスピーチが終わらなきゃパーティーが始まらないしね。
各自ここに来たのは、招かれたから以外の理由を持ち合わせてるだろうしね。
ていうか今見た限りでは貴族もマフィアもどちらも来てる。
何でテレカは両方呼ぶなんて考え無しのことしたのかしら。
テンペスト家が実はマフィアだということがばれる確率が高くなるだろうに。
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