うぃっしゅ ふぉー しゃいん

□第五話
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マリアとしてジョットと文通を始めてから一週間経つ。
私が送ったのは4通。

マリアとしての手紙はメイドに代筆させている。
どこの貴族でも文通始めはこんなもの。
ご令嬢本人直筆というのは珍しい。

それが私にとっては好都合。
おかげで私は千冬としての手紙を潜ませることが出来る。
マリアの手紙と私の手紙が混同されることはないだろう。
そして異物として私の手紙が始末されることも無いだろう。
なにせ内容が内容だから。
悩みどころは書く内容。
いきなりテンペスト家は麻薬の密売をしていると書いても信じてもらえないだろう。
だから最初は断片的な情報だけを綴る。
この程度なら調べてみよう、と思えるぐらいの内容。
調べた結果、事実だと分かれば私の手紙を信用してくれるだろう。
そしてだんだん書く情報を増やし、より深いものにする。
最終的にはテンペスト家についてのすべてを綴るつもりだ。

相手の反応が見えない中での駆け引き。
圧倒的に分が悪い。
けれど成功させる、絶対に。

すこしでも情報が欲しいからいつもと変わらず毎日町に行ってさりげなく情報収集を続ける。
だが何もつかめない。


今日も収穫なしかもと思いつつ町に行った。
だが違った。
町はいつもと違い、騒がしかった。
活気があるのとはどこか違う。
それを疑問に思って、何かあったのかと町人に聞いてみた。


「千冬先生、やっと見つかった!」

「先生、急いでください!」

「千冬お姉ちゃん早く!」

『どうしたんですか?
なんかいつもと様子が違うようですが…』

「説明する時間がおしい、早く来てくれ!」

『え、あの、どこに、』

「いいから早く!」


といった感じで無理やり腕を引っ張られて町で評判のいいカフェの近くに来た。
ここまで来れば私にもわかる。
かすかに血の匂いがする。
怪我人がいるのね。
トートバッグの持ち手をぎゅっと握る。
あら、でも様子がおかしい?
だって怪我人くらいでこんなに殺伐とした空気が流れるわけが無い。
さらにカフェの窓が割れている。


『何があったんですか?』

「酔っ払い共が暴れたんだよ!」

『怪我人は?!』


と言うのと同時くらいにカフェの開け放たれたドアの前に到着。
そして私が目にしたのは、ボンゴレ初代雲の守護者、アラウディだった。
プラチナブロンドの髪にスカイブルーの瞳。
どちらも淡い色彩が美しい。
目の色似てるな、それにまた綺麗な顔立ちをしている。
ボンゴレの守護者を選ぶ基準ってもしかして顔じゃないだろうか、とありえない勘ぐりをしても咎められはしないだろう。

という考察は一瞬ですませて状況を把握する。
床にうつぶせにされて手錠をかけられた男が三人。
うち一人は片手に怪我。
アラウディはさすがというか、怪我は一つもない。
割れたガラスが散って切り傷を負ったのがお客二人。
被害は大きくなさそうね。

ていうか何で誰も動かないの。


『店員さん、割れたガラスを処理してください!
怪我した人はこちらへ、手当てします!』


「「「は、はい!」」」


私の声で思い出したように動く人達。
店員ならさっさと動きなさいよね。
怪我してる人も腕から血を流しっぱなしとかありえない。
押さえるなりなんなりしなさいよ。
まあ欠片も表情には出さないけど。

ガラスで腕に怪我をした客は二人とも軽症。
ガラスがささった訳でもなく、ただかすっただけだから。
サラッと消毒して清潔なガーゼを当てて、その上から包帯を巻く。


『手当てはこれで終わりです。
今日は重いものを持つのは控えてください。
包帯も、明日になれば外していただいて結構です。』

「分かりました。」

「ありがとう、千冬先生!」


よし、後は床に放置されてる三人ね。
私が膝をついて床に転がってるやつらの脈などを診る。
彼らの状態に一度唇を噛みしめるけど、すぐにいつもの真面目顔に戻す。
男の手の怪我を消毒していると非難の声が上がった。


「先生、なんでそんなやつらを診るんだ?!」

「そうだ、そいつらなんて森にでも転がしとけばいいだろう!」


仮にも医者に向けて言う言葉か、それが。
それにぬるいな。
私なら猛獣の前に突き出すくらいするわ、もしこいつらが本当にただの酔っ払いなら。


『そういうわけにはいきません。』

「どうして!」

「当然の報いだろう!」

『・・・床が、汚れます。』

「「はい?」」

『床が汚れたら掃除するのは誰です?
カフェで働く店員達でしょう?
これ以上血は流れるべきではありません。』


ちょっと無理のある理論だけど皆いっせいに押し黙る。
やっぱ店はどこも悪くないからね。
今回のことは店側には災難だわ。

もう反論も来ないし男共の手当てを再開する。
男の手にもガーゼを当てて上から包帯を巻く。

野次馬はだんだん引いていく。

男共の口に薬品を染み込ませたガーゼを突っ込む。

私が現時点で出来る処置はここまでね。
立ち上がるとアラウディと目があった。
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