宝物

□手配書対策・ナギの場合
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「手配書対策・ナギの場合」
ヒロイン目線で。




ラテ「ナギ」

ナギ「あ?」

港から市街へと続く道。

私は壁に貼られた手配書のうちの一枚を指差した。

ナギ「ちっ」

軽く舌打ちしたナギが、その紙を乱暴に剥がす。

懸賞金18,000,000、鎖鎌のナギ。

似顔絵が似てないのが救いだけど、トレードマークのバンダナはバッチリ描かれてしまっていた。

ナギ「ったく、こんな小さな港町にまで…歩きにくくなったもんだな」

ラテ「街に入る前に気が付いて良かったね」

街に入る前からこうして手配書が貼られていた場合

中心街ではもっとたくさん見かけることになると経験上知っている。

浅くため息をついたナギがバンダナを外して、手櫛で髪をほぐした。

変装というわけじゃないけど、あえて似顔絵と同じ格好をする必要はないもんね。

目立つバンダナがないだけでも多少はマシってことで。

ナギが身だしなみを改めてる間、手持ち無沙汰な私はナギが剥がした手配書を眺めていた。

そしてあることに気が付く。

ラテ「…ナギ。ちょっとこれ見て」

ナギ「今度はなんだ」

ラテ「この手配書、前と少し変わったよ。『鎖鎌の』って入っちゃってる」

これまでの手配書には、ただ『ナギ』という名前しか書かれていなかったのに。

情報が更新されて、新しく作り直されたのかもしれない。

ナギは腰に下げた鎖鎌に目をやった。

ナギ「これも外していったほうが無難かもな」

ラテ「うん。鎖鎌持ってる人なんて滅多にいないから目立つだろうし…」

実際のところ、私はナギ以外の人が鎖鎌をもって街を歩いているところを見たことがない。

ナギは鎖鎌を解くと、続いてエプロンも外した。

それで鎖鎌をまるごとくるんで小脇に抱える。

ナギ「これから買い出しだってのに荷物が増えた」

ラテ「船に戻って置いてきたら?他にいつもナイフを持ち歩いてるんでしょ?」

ナギ「アホ。ナイフが鎖鎌の代わりになるか」

ラテ「え、十分じゃないの?ナギは丸腰でも強いくらいなんだし」

ナギ「あのなあ、オレ一人じゃないんだぞ。おまえがいるのに、もし海軍に囲まれたらどうする」

それって要するに。

私を確実に守るために必要だから武器は手放さないって言ってくれてる…?

ちらりと隣のナギの様子を伺うけれど、言った本人はまるで自覚なしって感じ。

ナギ「あんまりオレから離れるなよ」

そう言ってぐっと私の腕を引き寄せて、すぐ隣を歩かせるナギ。

バンダナも鎖鎌もエプロンもなくて、今のナギはどこから見ても堅気のかっこいいおにいさん。

急な襲撃に備えて手は繋がないにしても、なんだかコレって普通のデートっぽい。

この人のツレは私ですとアピールしたくなる気持ちが抑えきれなくて

ついナギのシャツをつまんで後を着いて歩いてみちゃったりして。

ナギ「…なんだよ、ニヤニヤして」

ラテ「んーん、なんでもない」

ナギ「あんま油断して歩くなよ。こういう手配書がきっちり貼られてる港の警備はザルじゃねえんだからな」

ラテ「大丈夫、何かあったら今日は私がナギを守るから!!」

ナギ「ぷっ。おまえが?そりゃ頼もしいな」

ナギは少しだけ笑っただけで、すぐに表情を引き締めて小さく呟いた。

ナギ「…手配書に書かれちまったもんは仕方ねえけど、これから毎回鎖鎌外して歩くわけにもいかねえよな…」

神妙に言うけれど、こういう港町で海軍に見つかったことなんて数えるくらいしかない。

賞金稼ぎに襲われることだって最近は滅多にない。

だからきっと今日も大丈夫。

そう思っていたのに。

甘い考えを持った私を神様が戒めようとしたのか

私達はこんな日に限ってトラブルに見舞われてしまうのだった。


***


「見つけたぜ、鎖鎌のナギ」

買い出しを半分ほど終えて偶然入った薄暗い裏路地で

私達は突然ひとりの男に行く手を阻まれた。

顔の左半分を覆うほど大きな眼帯をつけて、歪んだ笑顔をこちらに向ける男。

背には見たことのないほど大きな剣を担いでいる。

「久しぶりだなァ。探したぜ」

ラテ「…ナギ、お知り合い?」

ナギ「知らねえ」

この一言を聞いて男の笑顔が消え失せた。

「この顔の傷、忘れたとは言わせねえ!!」

男は声を大きくして、左手で眼帯をもぎ取ると地面に叩き付けた。

ラテ「!!」

眼帯の下から現れたのは、一筋の大きな傷跡。

それは左目を潰し、頬を縦断し、肌をひどく引きつらせていた。

醜いケロイドから思わず目を背ける。

「これで思い出したろ?」

ナギ「…」

「おまえの手配書を見るたびにこの傷が疼いてな…」

ラテ「…それとナギと何か関係があるんですか?」

「普通、今の会話の流れでこの傷はソイツがつけたって想像つかねえもんか?」

ラテ「ええっ、そうなのナギ!?」

ナギ「悪い、やっぱり覚えてねえ」

「てめえ…本気で忘れてんのかよ!?ナメてんじゃねえぞ!!」

男は怒りで顔を赤くして、背中から大剣をおろすとその切っ先をナギに向けた。

「この傷のせいでオレがどんな思いをしてきたかわかってんのか!?これが目印になって、すぐ海軍に見つかるようになっちまうし」

ラテ「ってことは元々指名手配されてる人なのね」

「…女にも逃げられて、散々な目に遭った」

ラテ「それは別にナギのせいじゃないでしょ。そういうの、逆恨みっていうんじゃない?」

「あのなあ、オレはこの傷のせいで迷惑こうむったっつってんだぞ、どう考えても思いっきりソイツのせいだろうが!!

これ以上正当な恨みはねえ!!」

ラテ「そ、そうだとしても!!元々はあなたがナギに負けたのが悪いんじゃない、自業自得よ!!」

「ンだとォ!?」

ナギ「ラテ!」

終始無言のナギに代わって口で応戦していた私は、ナギに制されてしまった。

けれど、それはちょっとだけ手遅れで。

「究極にいらいらする姉ちゃんだな…!!」

私はどうやら言い過ぎてしまったみたいだ。

こめかみに血管を浮かせた男は、大剣を私のほうへ向けた。

「女だけは見逃してやろうかと思ったが気が変わった。ふたりまとめて斬ってやる」

脅しじゃないのは雰囲気でわかる。

…いつもなら。

この前の段階でナギは鎖を投げて大剣を叩き落としてくれているはず。

だけど今、その鎖鎌はまだエプロンにくるまれたまま。

この様子じゃ戦闘準備をしてる間に攻撃して来るだろうし、鎖鎌は使えない。

うまく隙をみてナギのリストバンドに忍ばせてある小型のナイフを取り出したとしても

あの大剣とナイフじゃ武器の間合いが違いすぎる。

どうしよう…。

ナギはこんな状況にも関わらず、表情を変えることなく

背に庇うようにして私の半歩前に進み出た。

「おまえ、この傷をつけてくれた自慢の鎖鎌はどうしたよ。腰に下がってないようだが?」

ナギ「…」

「オレと戦う気がないのか?それとも…」

ナギが武器を持っていないらしいと気づいた男は、ナギに大剣の先を向けなおす。

「武器もなく女連れで歩くとか、強い男は余裕だねぇ。けどな、オレを丸腰で戦える相手だと思うなよ」

そんな警告をする男の態度は余裕綽々で

わざわざナギの顔の前で無駄に大剣を振ってみせた。

「おまえをオレと同じ目に遭わせてやるよ。まずはそのキレーな顔に一生残る傷をつけような。その姉ちゃんが逃げ出すくらい醜い傷を」

ラテ「…最低」

「なんとでも言え」

ラテ「生憎だけど私、顔に傷ができたくらいでナギから離れたりしないから」

「あーそうかよ、好きにしな。しかし無抵抗の相手をただ切り刻むってのはちっと体裁が悪いよなあ」

男はククッと喉で笑うと、腰にさしていた剣を一本抜いて地面に落とした。




to be continued



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