恋に落ちた海賊王:ハヤテ

□覚る
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「覚る 後編」
ヒロイン目線で。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 薄暗い中、甲板の鈍い明かりを目指して駆けていくと、屈み込んで甲板の板を修理しているハヤテさんを見つけた。

「ハヤテさん!」

 雨衣のフードを手で支えるようにして声を掛けると、雨をよけるように手をかざしてハヤテさんが顔を上げた。

「なに?」

「あ、・・・えっと、
 ご飯の準備が出来ましたんで・・・」

「あぁ、サンキュ!すぐ行く。」

 そう言って、また作業に戻る。

 ハヤテさんいつからここにいるんだろう。雨具を被ってはいるけれど、結構濡れている。

「ハヤテさん、びしょ濡れですよ、風邪引いちゃいます。」

「ん、もうちょっとで直るから。」

「あの、私何か手伝える事ありますか?」

「じゃあここんトコちょっと照らしてて。」

「はい。」

 雨で炎が消えないようにランプを近づけると、ハヤテさんの手元からぼんやりと明かりが広がる。
 ランプが二つになって、作業に適した明るさになった。

 ハヤテさんの顔も照らされる。

 しとしとと包むように降る雨のせいで、ハヤテさんの睫毛に小さな雫が留まっている。

 長くていいなぁ。

 ・・・ハヤテさんって、
 睫毛も金色なんだなぁ・・・・・・

 ランプの鈍い光が映って艶っぽく瑞々しい緑色の瞳は、作業している手元に集中していて、私の視線には気付かない。

 というか、私の姿は視界にすら入ってないのかも・・・。

「・・・・・・」

 目を伏せた拍子に、いつの間にか私の睫毛にも溜まっていた雫が落ちた。
 瞬間、ハヤテさんが立ち上がった。

「よっしゃ!これで倉庫は大丈夫だな。」

「?」

「倉庫の天井に水が滲みててさ。
 干し肉が湿ったら困るだろ?」

 髪の先から水を滴らせてハヤテさんが笑った。

 その笑顔に、私もついつられて笑みを浮かべてしまう。

「うぉーさみッ!戻ろうぜ!!」

 パッパッと軽く雨具を被り直すと、私の手を取って一目散に船内へ駆け出した。

「わッ、ハヤテさん!」

「腹減ったー!」

 ハヤテさんは全然意識していない。

 何も意識していないから、こうして手を引く事もごく自然で、そこに疑問など微塵もない。

 でも、私は・・・。

「ハヤテさん早いよッ」

 繋いだ手の、ハヤテさんに触れている部分に、全神経が集中しちゃう・・・

 ・・・ドキドキが止まらなかった。




 その手が離れても、しばらく感触が残っていた。

 ・・・どうしよう。

 私・・・ハヤテさんの事、好きかもしれない。







END


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

なんと約1年5ヶ月振りのハヤテです。
なんだか何が書きたいのかよくわからんなぁと思って以前ボツにした作品に
ちょっと手を加えて
ボツ救済してみました。


タイトルの「覚る」は「さとる」と読みます。

悟る と書いた場合
心の迷いがさめる、とか
悪いと気付く、という意味になり

覚る と書いた場合
明らかになる、とか
感づく、気付く、という意味に
なるそうです。
「角川 新字源」より。

人を好きだという気持ちは尊いものです。
ただ声を聞くだけで幸せになれる。
手が触れただけで
いつまでも感触が残っていたりする。

そういう小さな事って
大切にしなければいけないと
わかっているのに
いつの間にか
日常に流されて忘れてしまう。

本当は、手を繋いでただにっこり笑う
それだけで
何物にも代え難い程幸せな事なのかもしれない。


2013-06-26 (Wed) 16:24


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