捧げ物

□兎の休息と、/ALICE番外
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(そろそろ痩せてきたな・・・)

アルトはナイフの手入れをしながら思った。

多くの戦いの中で折れなかったのが奇跡のようだ。

おそらくもうすぐ始まる激戦に向け、新調しなければならない。

「兄さん」

双子の妹の声に顔を上げると紅茶の入ったカップが二つ載ったトレーを持っている。

紅茶のほかに小皿に盛られた菓子。

「お茶にしませんか?」

そういえば小腹が空いてきたところだ。

シスコンではないが、よくできた妹だと思う。

「落ち着いている」「礼儀正しい」などの評価を得ている妹は自分とは正反対である。

「兄さん、ボンヤリしてどうしたんですか」

まさか明日は雹でも降るのですか?!、と大げさに驚く妹に呆れながらも言葉を返す。

「んな訳あるか」

「冗談ですよ」

そこでクスクスと笑い、首を傾げた。

「今日の兄さん、本当に変ですよ?

いつもなら“煩ぇ”くらい言うのに・・・」

深紅の瞳に心配そうな色が浮かぶ。

「大したことじゃねぇ」

「兄さんに大したことじゃなくても、私には大したことかもしれません」

アルトは舌打ちすると簡潔に語った。

「俺の勘だが、もうすぐ真の統治者が来る」

「何でそんな重大なこと黙ってたんですか、バカ兄!」

「煩ぇ、黙れ!」

じーっと睨みつけてくる妹から視線を外しながら紅茶を一気にあおった。

「勘だっつっただろ」

「兄さんの勘はいつも当たるじゃないですか」

妹は盛大に溜息をついた。

「だからナイフの手入れなんかしてたんですね・・・。

大事の前だから、ですか?」

黙ったまま菓子をつまんでいると、また溜息をつかれた。

「私も銃弾の買い出しとかあるんですから、勘でも私には早くいってください。

・・・って言っても言わないんでしょうけど」

ぐうの音も出ない。

だが、勘は勘なのだ。

なんの証拠も根拠もない。

「・・・・・・死なないでくださいね、兄さん」

予想外の言葉に驚いて顔を上げると、妹の姿はもうなかった。

大方、銃弾の買い出しにいったのだろう。

「出かけるなら出かけるって言えよな・・・」

ナイフの買い出しついでに一緒に行ったんだが、と呟き、ふと笑みがこぼれた。

「俺が死ぬ訳ねぇだろ、バーカ」

妹とこれから共にいるためにもくたばるわけにはいかないのだ。
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