裏夢(SS)
□甘い毒
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毎日、毎日、違う男が百合子の上を通り過ぎていく。
男達のなかには華族の生まれであり美しい百合子を気に入って何度も通う者もいるのだが、心の壊れてしまった百合子は男の顔など覚えていない。
ただ痛いか気持いいか、それだけの違いだった。
唯一真島だけが百合子の心を繋ぎ止めていた。
百合子の全てを奪い、こうして体を売るように仕向けたのは真島の計画によるものだ。しかし、それを百合子が知ることはない。真島の口から語られたところで、今の百合子はそれを理解できる心を持ち合わせていないのだ。
全てを知っている真島は、百合子への愛と憎しみ、そしてこの復讐劇の元凶である出生の秘密に苦しみながら壊れてしまった百合子を求め続ける。
「ひゃっ!…あっ、は…ん!あぁっ!!」
ビクリと百合子の白い体が跳ね、何度目かの絶頂に意識を飛ばしそうになる。
荒くなった呼吸を整えようと大きく息を吸えば、百合子の上に跨ったいた男によって唇を塞がれ舌を絡めとられた。
「ふっ…うぅ……ん」
チュクチュクと口内を犯され、百合子はうっとりと瞼を閉じてまた男に身を任せた。
行為を終えて百合子の隣で寝そべり彼女の長い髪をすいている男の名は東条。彼はここ数日百合子の所へ通いつめていた。
真島は用事があると言ってもう何日も百合子の元を訪れていない。
真島だけを生きる理由としてなんとかギリギリの状態で耐えていた百合子にとって、真島に会えない日々は非常に辛いものだった。
そんな時に東条が現れたのだ。普段なら男の顔など覚えない百合子だが、真島がいないという寂しさと心細さのためか、自分を熱く、だが優しく抱くこの男の顔はぼんやりと霞がかった意識の中でも認識できるようになっていた。
「なぁ、お姫さん……あのこと、考えてくれたか?」
――お姫さん……
百合子は自分のことをそう呼ぶ東条に何故か懐かしさを感じた。
「……あの…こと?」
なぜ懐かしく感じるのか、その理由を百合子は思い出すことが出来ない。
コテンと首を傾げながら東条に聞き返せば、彼は困ったように苦笑しながらポンポンと百合子の頭を撫でた。
「お姫さんを身請けしたいっていう話さ」
「みう…け……?」
百合子がよく分からないといった顔で東条を見れば、東条は分かりやすいように丁寧に説明してくれた。
それでも今の百合子には難しくてなんとなくしか理解できないが、とりあえず百合子をここから出そうとしてくれることは分かった。
(でも…、私はここから出ちゃダメなの。ここにいなきゃ、真島と…ここに……)
俯いてしまった百合子に「ゆっくり考えてくれればいいから」と言って東条は帰って行った。
* * *
東条が帰ると入れ替わるようにして次の客が部屋へと入ってきた。
「――! 真島!!」
部屋へと足を踏み入れた男の顔を見て百合子はパァッと笑顔を浮かべると裸のまま彼の胸へと飛び込んだ。
「―っと。久しぶりですね、姫様」
にっこりと笑顔を浮かべて百合子を受け止めた真島の顔を見れば、それだけで百合子は幸せな気持ちになれた。
「真島、真島ぁ! 寂しかったよぉ!」
「すみません、姫様。どうしても外せない用事があったんです。――姫様のほうは、何もお変わりありませんか?」
真島はスッと目を細めると百合子の体に視線を這わせた。
「う、うん……、なにも、無いよ?いつもとおんなじだよ?」
「へぇ、そうですか。確かにいつも通り誰にでも足を開く淫乱な雌豚だったみたいですね」
百合子の白い体に散った無数の赤い印を見ながら、真島は笑顔でそう毒突くがその目は決して笑っていない。
「ま、まじ…ま? 怒って…る?」
「いいえ、姫様。あなたが淫乱なのは仕方の無いことですから怒ったりしませんよ。でも、俺の言うことはちゃんと聞いてくださいね?」
「うん! 真島の言うこと、ちゃんときくよ! 痛いのだって我慢する!」
「そう、姫様はいい子ですね。――じゃあ、俺の前の男はどうだったか教えてくれますね?」
「え…とね。 東条は……」
ここに来てから誰かの名前えを告げたことのない百合子のその言葉に真島はピクリと反応した。
「東条?へぇ、それが俺の前に姫様を抱いた男なんですか。どうして姫様はそいつの名前えを覚えていたんです?」
冷たい目を向けられ、ビクッと百合子の体が震える。
「姫様、嘘はいけませんよ? さぁ、ちゃんと全部話して下さい」
「あ…ぅ…真島、話す…から。だから、怒らないでよぅ……」
百合子は東条に“身請け”したいと言われたことや、どこか懐かしさを感じたこと彼から聞いた話など、たどたどしくではあるが覚えていることをすべて真島に話した。
「へぇ、姫様を身請けしたい――ねぇ……」
話を聞いた真島は、その東条という男が百合子に金の力で婚姻を迫ったあの男の姿とかぶり不快そうに眉を顰めた。
「真島…真島……、怒って…る?」
「いいえ、姫様。姫様はちゃぁんと話してくれましたからね、怒っていませんよ」
真島が笑顔を作れば、ほっとしたように百合子は真島の体に擦り寄った。真島は百合子の腰に手を回しギュッと強く抱きしめると、空いている手で百合子の顎を持ち上げ深く口付けた。
「んっ…、はぁ……まじ、まぁ…」
離れてしまうことが寂しくて、百合子は自分から求めるように真島の唇を追いかけた。
2人はベットまで移動すると、真島は着物を脱ぎ捨ててお互いが向かい合う。
「さぁ、姫様。いつものように舐めて下さい」
すでに自らを主百合子張し始めているソレを、真島が命じるがままは口に含むと、丹念に舌と唇を使い愛撫する。
真島に気持ちよくなってもらいたい――その一心で百合子は真島の男根に舌を這わせ指を絡めて刺激する。
「ふ…うぅ…ん、まじま、……きもち…いい?」
「…っ、はぁ……えぇ、姫…様。とても…上手ですっ……よ」
真島は百合子の頭を掴むと、グッと咽の奥に当たるほどに自身を押し込んだ。
「うぐっ!……んっ!んんっ!!」
「は…っ、まぁ、当たり前…ですよね、姫様…は毎日毎日っ……くっ、たくさんの男を咥え込んでる…ですもの…ね!」
真島は自分でこうなるように仕向けたくせに、百合子を抱くたびやり場の無い怒りにかられる。
百合子の口内を埋めていた自身を引き抜き、真島は百合子の体をぐるりとうつ伏せの状態にさせた。
「――っ!! あぁぁぁぁぁっ!!」
真島は百合子の腰を掴み、後ろから一気に貫いた。
「はっ、…触ってもいない…のに、こんなに濡れてるっ…なんて! さすが、姫様は……淫乱です…ねっ!」
「ひゃっ、あぁん!…あッ!アァっ!!だっ…て、まじまッ!だからぁ…あぁッ!」
激しく突きこまれ、どうしようもない快感に百合子は飲み込まれていく。
互いの体に浮かんだ汗からむわりと香る甘い芳香はまるで甘い毒のように2人を犯し、快楽の海へと引きずり込む。
それは阿片のように依存性が強く、一度知ってしまえばやめることは出来ない。
「どう…だかっ! 誰にでもッ!…そう、言ってるんじゃ……ないん…ですっ、か!」
「はぁッ!…あっ、んぁッ…!ち、がう…よっ!! ま、じま…だけっ!…っ!あぁッ!まじま……だけだ…よっ!」
激しくぶつかり合う体。甘い香りと快楽に脳は犯され、狂ったように互いの体をむさぼる。
「――――ッ!!ひめ、さまっ!!」
「あっ!!あぁぁぁぁぁッ!!」
ビクリと百合子の中で真島がはじけた。
「っ…はぁ、姫様……愛してます」
荒い息のまま真島は切なそうに百合子の耳元で囁く。
それは、百合子が待ち望んでいた言葉だ。
ドクドクと百合子の中に熱を吐き出した真島自身をズルリと引き抜けば、愛液と混ざり合い溢れた白い液体が百合子の太ももをつたい落ちた。
「まじ…ま、……私…もっ! あッ!!」
百合子の言葉を遮るように、真島は再び自身を百合子の中へとねじ込んだ。
何度はてても、終わりの時間がくるまで体を重ねあう――。
(真島がいれば、それでいいの。真島がいる――だから私は、ここにいるの――生きて、いるの)
百合子が快楽に犯されぼぉっとした頭で真島を見れば、やはり真島は苦しそうな顔をしていた。
なんでもするから、そんな顔をしないで欲しいと百合子は思う。
真島が百合子の元を訪れてから百合子は東条のことなどすっかり忘れてしまっていたが、あの日以来東条が百合子の前に姿を現すことはなかった。
真島がなにをしたのかなど百合子は知るすべはないが、知ったところで百合子の心が動くことはないだろう。
百合子は今日もまた、真島が来るのを待っている。
真島に会うために他の男に抱かれ、真島に“愛している”と言われるために生きているのだ。