銀河英雄伝説

□鉄壁に遊ぶワルキューレ
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簡単な理由


 ローエングラム王朝のオーディンからフェザーンへの遷都後、急遽フェザーンへとやってきたユーディット・フォン・アーベラインは、自身の所有するオーディンの邸宅を売却し、家財道具の搬送と、同行を希望する従者の旅券の手続きをするようにと、オーディンにいるポッペ老人にFTLを架けた。

「それから、フェザーンに家を買った」
『は?』

 送られてくる住所と建物のデータに、ポッペ老人は言葉を失う。こうと決めたら即行動のお姫様だが、今回はまた大胆な決断だ。

「フランツ、お前もすぐに来てくれ。家財はこちらでそろえられるが、事情の分かるものが近くにいないのは不便でたまらん」
『それは、善処いたしますが…。姫様、ひとつお
聞きしてもよろしいですかな』
「なんだ」

『何故ざわざわお屋敷を購入されたのですか? ホテル住まいでもよかったでしょうに』
「うん」

 最初はユーディットもそう思っていた。オーディンにはアーベライン家の所領があり、両親の住む城がある。帝都でなくなったとしても、オーディンを離れるつもりはなかったのだ。それが、あんなニュースを聞いてしまったら、あんな姿を見てしまったら、一人オーディンでなど待っていられない。
それになにより、今回一番感じているのが

「面倒なんだ」
『……作用でございますか』

身の回りのことを一切やったことがないお姫様が苦労しないようにと手配した一流ホテルだ。何をもって面倒だと宣うのか、フランツにはわからない。
ユーディットが面倒だと感じたのは人の出入りのチェックである。あれだけテロだなんだと続いていれば、帝国政府が要人警護に敏感になるのは当たり前だ。ユーディットは旧王朝の血を引く姫君であり、帝国軍内部に於いては五指に入る実力者であるナイトハルト・ミュラーの関係者として警護対象に入る。勿論ミュラーも最重要警護対象者だ。逐一チェックが入るのは致し方の無いことである。
とは言え、どちらにお出掛けですか? ご訪問の目的は? 滞在時間のご予定は?
万事がこれでは面倒でたまらない。
それで家を一軒──それも召し使いを100人は置かなければ管理できなさそうな──をポン、と購入してしまう辺り、一般庶民とは感覚がずれている。
しかしまぁこれで、ミュラーを呼びつければことは済むなと、面倒事が一つ片付いたと、ユーディットは満足げに頷いた。


20140513
「違うよ?」の続き。ユーディットさんはこうしてフェザーンにおうちを買いました。
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