銀河英雄伝説

□他キャラ
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通りすがり

帝国歴486年某日 オーディン宇宙港


 二十歳の誕生日祝いが中将への昇進と艦隊司令官の職席だというのだから、全くお貴族様というのはどうかしている。
 なんてことをこの人に言える人物はどこにもいない。
 子飼いの部下を引き連れて、拝領した旗艦級戦艦に意気揚々と乗り込まんとしているのは、現皇帝フリードリヒ4世陛下の従妹にあたる姫君だ。帝位継承権こそお持ちではないが、有力貴族でさえ従える「生まれ」の優位がある。
 出事だけでなく、ずば抜けた行動力と洞察力をもお持ちの姫君で、女伊達らに軍人を志し、あれよあれよと武勲をたてて、二十歳という若さで行けるところまで行ってしまった。女であること、皇系であることを鑑みれば、彼女は軍内部でこれ以上の地位に昇ることはないだろう。
 上が上がらなければ下も昇進はない。そんな司令官の参謀に任じられた自分は、幸運であるのか不運であるのか。
 前線から離れた宙域が任地といっても、海賊を求めてわざわざ宙域を移動するという噂の姫将軍だ。戦死する可能性がないわけではない。であれば、せめて昇進が見込める司令官の下に就きたかった。

「あれはなんだ」

 白魚のような指が指し示す先には、宇宙港の大窓から離陸する艦船を見送る人……カメラを構えて奇声を発する少女がいた。

「撮影しているように見えます」
「戦艦をか?」
「はぁ。最近、巷ではトリテツなるものが流行っておりまして、恐らくそれではないかと」
「トリテツ?」
「乗り物を写真に納める事を趣味とする人をそう呼称いたします」

 ふぅん、と姫将軍が少女から視線をそらす。と同時に首席補佐官(初めて聞いた役職だ。要はお目付け役らしい)のポッぺ大佐が

「あれは確か、シュレーゲル伯爵のお嬢様ではないかと」
「伯爵令嬢?」

 思わず目の前を歩く姫将軍を見詰めてしまう。

「伯爵令嬢というのは、どうもおかしな人種が多いようだ」

 呟いてしまってから、しまったと思った。左右からポッぺ大佐とヘイゲン大佐がぎょっとしてこちらを見る。ヘイゲン大佐などは、声に出さずに「ばか」といってくる始末だ。因みに小官は准将。上官に向かってバカはないだろう。
 肩越しに、姫将軍が振り向いた。もともと伸ばしていた背が、電流を走らせたように延び上がる思いがする。

「准将。あの少女も然り。マリーンドルフ伯爵の令嬢も変わり者との噂だが、そう悲観したものではないぞ? 帝国に伯爵令嬢などごまんといるだろうからな」

 楽しそうに声をあげて笑い、姫将軍は何事もなかったかのように歩き出す。
 ふー、と、自分の含め三つ溜め息が聞こえた。
 器が大きいのか鈍いのか。
 何れにせよ、任官初日で解雇されることは無さそうだ。



20130115
最初に読んだお話でアリーが戦艦図鑑を抱き締めていたのが印象的で、こんな話を思い付いてしまったのです。
アリスさんのアリー像とは大分違うだろうな(^-^;
すみません(汗)
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