銀河英雄伝説

□鉄壁に遊ぶワルキューレ
32ページ/37ページ

女々しい


ウィスキーの氷が溶けて、琥珀色の液体の中で燃える炎のように揺らいでいる。このままではせっかくのロックも水割りだと、ぼんやりと思いながらもそのままグラスの中を見つめていた。
軽い酩酊感が心地好い。このまま眠ってしまえばいいのに、グラスの向こうに数時間前に見た男の姿がちらついている。
ユーディットと同じ車に乗っていた、貴族の子弟らしき身なりの良い若い男。
パーティーにいった帰りだといっていたから、同じパーティ客なのだろうし、以前からの知り合いなのだろう。
知り合い。どんな?
親しいのだろうか?
気になるのなら、聞けばよかったのにと、我ながら自分の意気地の無さに呆れる。
ユーディットの噂は入院中に様々耳に入った。付き合いをやめるようにという忠告付きだった事もしばしばだったが、嫁にもらえという勧めもあった。
かの姫将軍は自分の階級より低い男からの求婚は受けないらしい。大将のミュラーならば条件にも適っているのだから、暴れ馬に手綱をつけろというわけだ。
言われたときには冗談で流したけれど、今は真面目に考えている。
美人に言い寄られるのは悪い気はしない。自分にだけなついているようなのも。
散々な噂も多いが、それでも彼女への求婚者は絶えないと聞く。あの同乗者の男もそのうちの一人ではないのか? そう思うと眉間に力が入った。面白くない。
彼女がただの貴族の令嬢であったなら、きっとここまで躊躇いはしなかったに違いない。
いくら自分が平民出の成り上がり軍人だとしても、否成り上がりだからこそ自信だけはある。
ローエングラム公は帝国を変える。新体制下での自分はそれなりのポジションにつくだろう。
彼女が落ち目の貴族の家の娘なら、たとえ家名目当てだと後ろ指を指されようと求婚する。
けれど彼女は黄金樹(ゴールデンバウム)の枝葉の中でも幹に近い場所に連なる血筋の姫君なのだ。
ミュラーが彼女に求婚するということは、病魔におかされた大樹の枝を別の森に移して、その森を病魔に脅かすことに等しい。
緑の森(グリューネワルト)に、黄金樹(ゴールデンバウム)は必要ないはずだ。ましてその黄金樹を緑の森のその中枢にいる自分が手にして良いわけがない。

「旧王朝の姫を新王朝の王が妻に迎えるなんて話は、よくあるけどな…」

美しく気高い黄金の獅子。
我らがローエングラム元帥の隣にユーディットが並んでいる姿を想像する。
美男美女で誠に絵になる。が、
ミュラーの眉間に先程より深いしわがよった。想像を飲み下すように、薄まりかけているウィスキーを一息に煽る。
乱暴にテーブルに戻したグラスの中で、文句をいうように氷がカラン、と落ちた。



20150819
4.6の後の話。だからうだうだしてないでさっさと押し倒せばいいのに、って回りで見ているみんなが思っています(笑)
Web拍手から引っ越し
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ