銀河英雄伝説

□鉄壁に遊ぶワルキューレ
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その後のエピソード

 軍務尚書にはメックリンガーがなるんじゃないかな? とか勝手に思っているんですけど、とにかく軍縮!軍縮!の流れになるんでしょうね。
 国政のトップが女だし、実際に戦闘をすることもなくなるだろうから、軍部も男女平等になっていくんじゃないでしょうか。
 みんなそれぞれ忙しそうだけど、ビッテンさんは従卒に女学生が来てびびってそうだ。
 そして、副官補佐官的な女性下士官に求婚すればいい。


猛将之にあり

「卿は、その・・・。将来を誓い合った男子などいるのか」
 執務室に珈琲を運んできた、今年任官したばかりの女性少尉は、大きな図体を丸めて、机の上で指を組んだり解いたりしている元帥の言葉に耳を疑った。
「仕官先にはケスラーのところを第一希望にしていたそうだが、あいつはだめだぞ。直、結婚する。ミッターマイヤー元帥は妻帯者だ」
 誰も聞いてもいないことをぺらぺらとしゃべる。女性少尉が求愛されていることに気づいたのは、ビッテンフェルトが10分は1人でしゃべり倒した後だった。
「結婚を前提に、付き合ってほしい」
「それは、命令ですか」
 思わず確認していた。当惑し困惑しているのはビッテンフェルトも同じで、いつもと同じような大声で話していた。威圧しているとも取れなくない。
「そ、そんなことはない!」
 思わず立ち上がっての大声は、ドアの外で入室のタイミングをうかがっていたオイゲン副参謀長の耳にまで、しっかり届いていた。
「閣下、それでは脅しですよ・・・」
 すっかり萎縮してしまった少尉に、オイゲンは半日休みを言い渡し、こちらも仕事にならなさそうな上官には、定時きっかりで帰宅を勧めた。


 定時で軍務尚を追い出されたビッテンフェルトは途方にくれて、ミュラーの邸宅を訪れた。
 そして開口一番
「卿はどのように奥方を口説いたのだ」
 迷子になった5歳の子供でももう少ししっかりしているのではないだろうか。
「女は押し倒すんじゃなかったんですか」
 結婚前にからかわれた時の仕返しとばかりに、ミュラーはすましてビッテンフェルトの前にブランデー入りのグラスを差し出した。
「馬鹿なことを言うな!」
 グラスの中身は水かと疑いたくなるような勢いでそれを飲み干し、空になったグラスを乱暴にテーブルに置く。割れなかったのが不思議なくらいだ。
「彼女は純粋なのだ」
 それじゃあまるで、うちの奥さんが純粋じゃなかったみたいじゃないですか、とは言わず、ミュラーは空になったグラスに二杯目を注いでやった。
「わたしのは、参考にはならないと思いますよ」
 相手はまったくの無自覚だったが、愛の猛攻を受けたのはミュラーのほうだし(ユーディットは認めないだろうが)、ビッテンフェルトのケースとはまったく話が異なる。
「ミッターマイヤー元帥に相談してみてはどうです? この時間なら、もうご自宅にいらっしゃるのではないでしょうか」
 計ったように横からウィジフォンの小型端末が差し出される。にこりと冷たく微笑んだのは、大きな腹を抱えたミュラー元帥夫人だ。
「番号は短縮にはいっています」
「おお、これはかたじけない」
「ユー・・・」
「ナイトハルト。なんならあなたもご一緒にお出かけになられたら?」
 こんな時ばかり、母親そっくりなしゃべり方をする。ああ、怒っているな。顔を見なくてもそれくらいはわかる。しかしそれも仕方ない。今日は早く帰るから、子供の名前を考えようと約束して朝家を出た。それがこのざまなのだから。
「うらむぞ。ビッテンフェルト提督」
 というつぶやきは、ウィジフォンの回線を開いたビッテンフェルトの耳には入らなかった。

 突然の訪問を受けたミッターマイヤーは、それでも快く二人を迎え入れた。
 バイエルラインも来ているがいいかと断って、奥の部屋へと酒の席を設けてくれた。
「どうした。ビッテンフェルト。いつもの卿らしくもない」
 というミッターマイヤーに、実は、と切り出したのはミュラーで、話を聞いている内にミッターマイヤーはなんとも苦々しい顔つきになった。
「二人して深刻そうに何かと思えば…。女一人口説くのに、いちいち俺に相談しに来るな」
 苦笑してビールに口をつける。ミュラーの時もそうだったが、結局身近な家庭人というとミッターマイヤーしか相談できる人物がいないのだ。それはミッターマイヤーもわかっているので、渋い顔をしながらも相談に乗っている。こんな風に頼られるのは、悪い気はしなかった。とはいえ、適切なアドバイスが出来るほどの経験がないのはミッターマイヤーも同じことだ。こんなとき、ミッターマイヤーは黒髪の親友を思い出す。
「バイエルラインはどう思う」
 と話を振られたバイエルラインは、堅苦しく「小官は専門外であります」と敬礼した。
「まぁ、そうだろうな」
 端から返答を期待していたわけでもないが、こうも愚直だと先が思いやられる。その内こいつにも嫁を世話してやらねばならんのだろうとは思うが、はてさて、相手に心当たりがない。それこそ、ミュラー夫人に尋ねたいところだ。
「軽々しいことはせぬことだ。卿にも立場というものがあるからな」
 ミュラーの愚痴とも取れなくはない顛末を聴き終えて、話は終わりだとばかりにミッターマイヤーは3人にグラスを勧めた。

 この話はミッターマイヤーからヒルダ。ヒルダからユーディットへと伝わって、ユーディットからミュラーのところへ戻ってきた。
「ビッテンフェルトが柄にもなく恋患いだそうだ」
「ええ。そのようです」
 驚かない夫に、ユーディットはなんだつまらないという顔をした。
ミュラーの方は友人からの相談でもあることだしと、少しだけ考えて、いたずら半分問いかけた。
「もし、ビッテンフェルトから求愛されたらどうします?」
「断る」
 気持ちよい程の即答に、ミュラーは思わず苦笑した。せめて一泊くらいは置いてやれよと、同僚を哀れに思わないでもない。女性としての一般的な意見を聞きたかったのだが、言った後で、妊娠している妻に言う台詞ではないなとミュラーは一人反省する。ミュラーが詫びの言葉を口にする前に、ユーディットは
「5年前なら…」
 と思わせぶりな視線をくれた。
「えっ」
思わずギクリとグラスを置いたミュラーに、
「手合わせしてみたかった」
 にやりと笑う様は、今も5年前も変わらない。
「頼むから、やめてください」
 ミュラーは全身でため息をついて、妻の手を両手で包んだ。


2011/7/26

20140303に加筆修正
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