Book(aoex)
□光の方向
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「…ん…、」
俺は、気がつくと暗闇の中にいた。
ドアもない、窓もない、真っ暗闇。
とりあえず立ち上がって、あてもなく歩いてみる。
「…つか、どこだよ、ここ…」
雪男もしえみも勝呂たちも、いないなんてな…
―カラッ…
「え…」
気付いた時にはもう遅かった。
なんかわかんねぇけど、俺、暗闇の空間にあった、底が見えないような谷の中に落ちようとしているみたいだ。
「え…ちょっ、なんなんだよ!
わけわかんねぇよ…!!」
はじめこそ、なんとかして助かろうと足掻いていたものの、何をしても訪れない浮遊感からの解放に、疲労困憊し始めていた。
考えることは、だんだんよくない事ばかりになっていく。
―その時、
「燐!」
…刹那、誰かが俺の腕を掴んだ。
下をみれば、まだまだ続く暗い谷底。
(あぁ…俺、死ぬのかな。)
―お前、悪魔だろ!お前みたいに乱暴なやつ、みたことないぜ…
―悪魔はこの世界にいちゃいけないんだ!帰れ帰れ!!…
……あぁ、谷底から聞こえてくる呻きに似た声。
どれも聞き覚えがある。
…昔、俺がよく言われてた言葉だからな。
なんで今更…
そもそもここはどこなんだ…?
なんで俺はこんなとこにいるんだ…?
…俺の腕を掴んでいるのは誰なんだ……?
「……ん…り……燐!!」
「……ん…、?」
「燐!…よかった…目が覚めたのね」
……え、?
な、何がどうなってるんだ?
俺の目の前に、俺の大切な人、なつがいて…
でもって、そのなつは、俺を見つめながら涙を流してる…。
「…あっ!暗闇は…後、真っ暗な谷…」
「…?何言ってるの?燐、悪い夢でもみたんだよ…」
そう言って、俺の頭を撫でてくれる。
「…燐、さっきからずっと魘されてたんだよ…?私、どうしたらいいのかわかんなくて…とりあえず雪ちゃん、呼んだから…」
「あ、あぁ…そうか…」
…夢…?
あんなにはっきりくっきりとした夢があって堪るかよ!
それに、あの手は誰の…?
「あ、手…ずっと繋ぎっぱなしだったね。」
なつはそう言って、俺の手をもう一度、強く握った。
……あぁ、そうか、あの救いの如く、差しのべられた手は、愛する、彼女のものだったんだ。
光の方向
(いつも君が俺を導いてくれる)
2012.6.21
なつ