星霜の星屑

□銃口は冷たく火を放ち
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俺は、あいつの願いを叶えたんだろうか。


(かき消された音)



高杉晋作、という男がいた。
人間のくせに、異様にまっすぐな人間で俺はなぜかあいつが気に入った。

生き様や思想が、なんだか好きだったし俺はたまに酒さえ酌み交わした。



だが、あいつは神さまってヤツに嫌われてたらしい。

時代を変革するものに限って、命とは短いもんなんだと思ってしまった。




労咳。
不治の病、死病として有名な感染病。


人間ってのは、脆い。

俺たちのように長生きはできねぇし、命に目がくらんで汚いことばかりする。



でも、あいつは違った。

変わらなかったんだ。
俺の友人の「高杉晋作」から何も。


あいつは、こういったんだ。


「醜い姿をさらして心配を掛けたくない。…今ここでお前の手で殺してくれ」



あいつが、初めて俺に「願い事」を告げた。
鬼だと知っていながら、何もしてこなかったあいつが。

命のはかなさを、みじめさを自分の身で知ってくれといわんばかりに。



撃鉄を起こして、引き金を手にかけた。

あいつは最期の時まで笑ってつぶやいた。



「身はたとひ 

  武蔵の野辺に 朽ちぬとも

     留め置かまし 大和魂」


師匠の辞世の句。


その直後に、俺の放った銃弾は確実に高杉の胸を貫いた。
銃口から、煙が流れる。

それは、どのときよりも冷たく銃の感触が手に鮮明に残った。



(そのあと新選組に出会った。


思想が全く逆だったが面白い奴がいた。

原田左之助。


臆さず、ひるまず。
まるであいつにそっくりだった。

俺は、また友をこの手で殺すんだろうか)


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